8、ライバル認定されました
「氷の魔法ということは……水属性の上級精霊でしょう。さすがですね、エリザベス様」
無愛想副団長さんが微妙に、本当に数ミクロン程口角を上げて私の精霊を評価してくれた。
それを聞いたレオン様はいつの間にか繋いでいた手を握りしめ、「よかったね」と笑いかけてくれる。久しぶりのクリアな王子様スマイルだわ。拝めるくらいに整ってる事に関しては神を恨みたいですわね。
たくさんいる内の中で上級精霊と契約したのはジオラークと私だけらしく、他の貴族の皆様も珍しそうに私達3人を眺めている。悪役令嬢の私にとってはこの上なく平和な時間だ。
「嘘だろ?」
ただ、レオン様の反対側に立っているジオラークが悔しそうにそう零した事以外では。
もしかして、私は貴方のその面倒な……じゃなくて繊細な自己顕示欲と承認欲求にふれるような事をしてしまったのではないでしょうね?
顔を引きつらせつつジオラークの方を見ると、案の定顔を赤くして涙目でこちらを睨む彼が目に入る。あ、まずい。
「お前が水の上級精霊と契約しようが、絶対お前には負けねぇ!そこの王子もエリザベスお前も、魔法に関しては全てにおいて俺が勝ってやるからな!」
その言葉はヒロインの光の精霊に対して言うはずだった言葉じゃなくて?
赤い顔に涙目、負けず嫌いだから私とレオン様にキャンキャン噛み付く癇癪にも似たその姿は小動物の威嚇みたいでかわいい。なにこれまじかわいいんだけど。……おっと失礼。
「残念だが、僕達はおいそれと君に負けてやるつもりは無いよ。僕にもエリザベスにも、君が勝ちたいのであれば君の努力で勝つんだな」
ヘイ王子、あんたも何火に油を注いでんだよ。もしやあの時の復讐なのか?また私は巻き込まれてるのか?
ていうか貴方もそのセリフヒロインに噛み付いたジオラークに対して言うはずだったよね?ここは言うタイミングじゃないよ?
「あ、あの皆様?ここはたくさんの目がありますので……」
「すまないリズ、この阿呆に対して頭に血が上ってしまった。王になる身として恥ずかしい行為だったな」
「だ、誰が阿呆だ!……いいさ、レオンハルト殿下にもエリザベスにも負けないくらいに精霊を使いこなして見せるさ。王立学園入学時に負けても文句言うなよ?」
「あぁ、その分僕達も腕を上げるつもりだ。後、僕に敬称は付けなくていい。ライバルなんだろ?僕も敬称なしで呼ばせてもらうよ」
「あぁわかった、レオンハルト」と、ニヤリと笑い合う。
幼いレオン様とジオラークの友情イベントに、ライバル認定だなんてこんなのゲームに無かった。すごい、いい、このスチル欲しい。
私が感動しているうちに、いつの間にかこちらを向いていたジオラークが私に向かって近づいて来た。
あぁ、もったいない。
「エリザベス、お前も俺のライバルだからな」
「あら、嬉しいけど私もお二人のようにもっと仲良くなりたかったわ」
「それじゃあお前を愛称ででも呼ぶか?」
「はぁ?そんなの僕が許さないけど」
「それじゃあ私が貴方を愛称で呼びましょうか。例えばジオラークだから……ジル、とか」
「リズ、僕を差し置いて他の男と親しくなりすぎるのはどうだろう」
「はい申し訳ございませんでした」
レオン様のご機嫌をとりつつ、和やかにわちゃわちゃと3人で冗談を言い合う。とても楽しい時間だった。
だから、野原の片隅に光の精霊が現れたのに私は気づかなかったのだろう。
次回、ヒロイン登場!
皆様ありがとうございます。




