番外5、エリィ女神化大作戦
私は、場違い感半端ない王宮の一室の豪華なソファーに姿勢よく座っていた。隣の一人がけの椅子に座るのはジル様ことジオラーク様、さすが、肝が据わってらっしゃる。そして私の隣でニコニコと微笑んでいらっしゃるのはリュー様ことリュシュア様、なんだか最近私との距離が近い気がする。
そして一段と大きく高価そうなソファーに優雅に座っていらっしゃるのはこの国の王太子殿下だ。
この場にいないマーフェディア様は実は誘っていない。彼は女性にかけるべき言葉を全くもって知らないから、この場に居ても居心地が悪くなってしまうと王太子殿下が話したからだ。
……マーフェディア様はあの売女から一本取ってくださった方だけど、そこまでエリィ様に陶酔していないから話は合わない。
というか、私のエリィ様話で話の合う方は恐れながら王太子殿下しかいないし。
「失礼しますわ」
「あぁ、どうぞ?」
控えめで、かつ心地よい音のノックの後に美しいソプラノが扉越しに聞こえる。
ゴールドの装飾にまみれた扉を開けたさきには……
「レオン様やはりこのドレスはどうも派手過ぎ……え?」
「あぁあ、イヴちゃんまた気絶しちゃった。エリィ、もうちょっと魅力抑えて来てよ。おかげでイヴちゃんと王太子殿下が死にかけてるんだけど。そう思うよね、ジオラーク」
「……リュシュア、それは多分無理だと思うが」
目に飛び込んで来たのは、真紅の艶やかな生地のドレスに身を包んだ女神様だった。きっと私は明日死んでしまうのだろう。
肩を出すデザインの流行りとは違う型のドレスから、華奢な肩や、対称的な鎖骨の線、豊満な胸に出来た海溝のごとき谷が覗いていた。こんなに女性的なのに下品ではなく、セクシーさを残しながらこの世のものとは思えない程の美しさが溢れているなんて、エリィ様しか着こなせないのではないだろうか。
今の流行りは、メルヘンチックなピンクを取り入れたフリルを多く使った姫のようなドレスだが、これを見ればすぐに流行りが変わってしまうのは想像に易い。
「…………はっ!」
「生き返ったな、勝手に気絶するなよ?ここに来た理由は忘れるな、あの聖女もどきよりもエリィが未来の王妃に相応しいと見せつけるための会議なんだから」
そうでした。いつの間にか再起動していた王太子殿下はドレスと同じように頬を染めるエリィ様を褒め殺している。ずるい。
私達がここに来たのは、エリィ様をこれ以上ないくらいに美しくするための作戦会議をするためだ。
流れはこう、
1、王太子殿下とエリザベス様が誕生祭で仲の良さを民衆に見せつける
2、式典で王太子殿下がエリィ様と国を支えるような意味合いのことを話す
3、聖女様に公式に2人を祝福させる
これを達成させるための作戦会議……と意味づけしたエリィ様のは衣装披露会である。
1、はもちろん簡単に達成できるし、2、に関しては国王陛下のお言葉の中で次期国王となる者として少しお話しされるみたいだから大丈夫だろう、3、が1番不安要素が多いが、公の場で祝福させたらもう聖女は王太子殿下を色目で見ることができない。
「リズ、やっぱり真紅はやめようか……こんなに美しく似合うだなんて想像以上だった。この姿を他の野郎共に見せたくはない」
「あのレオン様?今更ドレスの変更は出来ませんでしょう?あと、しれっと抱き寄せて腰を撫でないでもらえます?」
「なんで?」
「……どうしよう私の婚約者過保護とセクハラが爆発してヤンデレルートを爆進してるんだけど詰んでない?私詰んでない?」
ブツブツと高速でエリィ様が何かを呟いていたけど、私達を全く気にしてない王太子殿下が口を塞いで真っ赤になって黙ってしまった。
なんなんだあの女神は、空気に徹する私を殺す気なのだろうか、もちろん狙い通り意識が遠のいているけれど。




