73、聖女の独白
「私は……貴女を助けるために………っ…どうしてぇっ!」
「聖女様……?どうされたのですか?私を助けるっどういうことですの?」
涙でぐちゃぐちゃになったアイナ嬢から出た「助けたかった」という言葉は、どうやら聞き間違いではないらしい。今までアイナ嬢は私には礼儀知らずな行動をとるという暴挙を毎日犯していたが、助けたいという感情を持たせるようなことをしたつもりもされたつもりもない。どちらかというと、彼女はレオン様にばかり突進して、私にそんな行いをする時はだいたい私がレオン様と一緒にいた時だけだった。2人ともイジメも干渉もしない、我ながらドライな悪役関係だったと思うのだが。
「どういうことか……説明していただけますか?」
しゃくりあげて過呼吸気味のアイナ嬢を宥めるように、ゆっくりと、これ以上ないくらいに優しく問いかけた。
私の腕を掴む細く長い指に力がこもる。泣いているのに、ヒロインらしい意思の強いまっすぐな瞳はそのままに私を見つめていた。
「……こんなことを言って信じて頂けるとは思っておりません。ですが、ただの御伽噺としてでも、しっかり聞いていてください。
…………エリザベス様は、レオンハルト王太子殿下とこのまま婚約していると、……死んでしまうのです」
「ぇ……」
それはゲームのエンディングのこと?
でもそれにしてはストーリーが少し違う気がするんだけど?
と、聞きたかったが喉の奥が痙攣したようにヒクヒクと動き、思ったように言葉も声すらも出ない。なぜアイナ嬢が『私が死ぬこと』を知っているのか、そしてなぜそれが私を助けることに繋がるのか……
「私は貴女に死んで欲しくはありません。考えて……私がエリザベス様から王太子殿下を奪うことこそが唯一の救う道なのだと思いつきました。お忍びで観た演劇の悪役や、本の中の魔女、市井で騒ぐ踊り子の言動を真似て……恥を捨ててあのような事をしていました。その内に……私も王太子殿下に惹かれていって、最近は目的も忘れて自分の感情で動いてしまっていました。とてもエリザベス様に悪いことをしたと反省しています……」
震える喉を開いて、震えた声が出る。
「つまり貴女は、このままだと思う死んでしまう私の未来を変えるためにあの様な事をしたと?」
おかしい。
単純にそう思った。
「そうです……が、私も王太子殿下を好きになってしまって……」
涙も少し治まってきたアイナ嬢が、俯いてそう零した。
「貴女その事を「あっ!よかった見つけた!」
私の言葉に被さるように、大きな声が聞こえた。
その声が聞こえた方向を2人が向くと、背の低い木々の中に葉っぱだらけの
「もう!皆様探されていたんですよ!聖女様!エリザベス様!」
ミリアンナ嬢がいた。




