71、再会できました!
やはり、この森では魔物とは出くわさなかった。
当然か、聖女様がいるんだし、しかも東の森で深く入ってもいないのに。どうせならあの時のピチュアにも会っておきたかったけど、あの小川がどこにあるのかわからないから無理かな。
この森をゆっくりと歩く私達御一行は、というか私はそんなことを考えながら魔物を探していた。
戻らなければならない時間まではあと少しだろうけど、未だ一体も魔物を見ていないのだ。このままでは今回の実習の意味がない。
「……水の音?」
「川が近いのかも、ピチュアくらいなら居るかもね」
「ピチュアが!行きましょう!」
レオン様の言葉に反応して、逆に手を引くように音の方向へと向かう。ここにきてまさかのピチュアと会えるチャンスがきたのは、シンプルに嬉しかった。あの村に関わるようになってから魔物との距離が近くなったように感じるから、久しぶりに、初めて出会った魔物のピチュアに会えるとなると心が踊る。
そうして数分ほど歩くと、小川が見えてきた。あの時の小川とは違うけどピチュアは割とどこにでもいる魔物だからきっといるだろう。
「……久しぶり」
手を小川に付けて小さく呟くと、少し経ってから水面が揺らめいて私の手のひらの上にピチュアが乗ってきた。見慣れたゲルのような透明の魔物だ。
ピチュアは私を見上げると、ぽよんぽよんと跳ねてぽちゃんと川に落ちた。近くにいたレオン様が興奮したように息を呑むと、また私の手のひらにピチュアが乗った。あの子が仲間を呼んできたのか手のひらの上は4体ものピチュアがひしめいていた。片手だから落ちかけてる子だっている。
個々で見ればかわいい魔物だが、ここまで集まっているとなると結構思うものがある。「うおぉ」とかわいらしくない声が私とレオン様から漏れた。
「このピチュア達は随分リズに慣れているね」
「ミフィリアと出会う前にこの子達と遊んでいたんです。ピチュアは臆病ですが一度気を許した相手にはとても懐いてくれるかわいい魔物なんですよ?」
「あの……」
私とレオン様が和やかに……いや、私の片手は和やかとは形容しがたいことになっているが……話している最中、後ろから声がかかった。
2人同時に振り返ると、オセロ……じゃなくてマーフェディアが仁王立ちで立っていた。
「あの、私も近くで魔物を……ピチュアを見てもよろしいですか?」
「もちろん!この子達は人見知りするかもしれませんが、マーフェディア様はミフィリアとすぐに仲良くなれましたからきっとすぐに仲良くなれますわ」
すごいことになっている片手を少しマーフェディアの方へと傾けて、見やすいようにする。ピチュアのうちの一匹は、レオン様とマーフェディアに興味を出したのか、私の片手から出て腕の辺りに移動し、2人を見上げていた。
それを2人が感動したような、不思議そうな顔で見ていて少し笑顔が零れた。
そんな平和で不思議な時間の中、私の目の前に影がおちた。
聖女様だ。




