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69、私の寿命10年は縮んだわ……


「い…ろ………じか、け?」


アイナ嬢が顔を引き攣らせながら、たどたどしくその言葉を復唱する。ミリアンナ嬢は怯えるような気を使うような顔でアイナ嬢を見るが、私の場所からは彼女の顔が見えない。

いや、もちろんそう思われても仕方ないことを軽々しくしていたのは認めるが、たくさんの人々のど真ん中で中々な音量でこんなことを言われるのはさすがに同情しなくもない。


「……どういう意味ですか?マーフェディア様」

「いえ、聖女様はメイリーン伯爵令嬢の目の前で王太子殿下に無礼を働いていたので不思議に思って」


真面目な少しも茶化そうとも思っていない顔でそう言ってのけた。

そう、彼はこちらが心配になるほど愚直で恐ろしいほど肝の据わった男なのだ。異名は『真っ直ぐな脳筋騎士』だった。その名に恥じない誤解とすれ違いをほいほい呼び込むトラブルメーカーだったが、性根が真っ直ぐすぎて世渡りが限りなく下手だっただけだから攻略の苦労に反して好感度は高かった。

剣の腕はこの国随一らしく、騎士団に幼少期から勧誘されていたのは嘘ではなく実話だという。

整った顔に、白銀の長い髪を後ろで無造作に黒いリボンで一つにまとめた髪型、目は綺麗な黒色で私の第一印象は「なにこれオセロじゃん」だった。


「私は……そんな浅ましいことをしているつもりはありませんわ!私はただレオンハルト様といつも一緒に居たかっただけなのに……マーフェディア様ったら酷いわ」

「それは失礼しました。ですが本来王太子殿下の隣に並んでいい者は王族の方々と、王太子殿下が公式に認められた婚約者のメイリーン伯爵令嬢のような方だけだと思うのですが……聖女様の風体も考えてあまり褒められた行動ではないかと」


無表情でそう淡々と伝えるマーフェディアと、怒りか羞恥かで顔を真っ赤にして震えるアイナ嬢を交互に見て顔を引き攣らせる。

どうしたらいい、レオン様もいつもの顔をしているが私にはわかる、今あった目線の奥底には大きな困惑が見て取れた。


「アンゼルス子爵令息、聖女様、そこまでにしましょう。とっくに時間は過ぎてしまっています。私と我が婚約者、聖女様のことを思ってのことだったのでしょう、ありがとう」

「いえ……出過ぎた真似をしました」


レオン様がいち早く再起動して、何とか空気を変えた。他の空気に徹していた人々も安堵の息をついてアレックス先生の所に集まって行く。レオン様が私のエスコートをしながら進むとその後ろを黙ってついてくるマーフェディア、アイナ嬢は下を向きながらミリアンナ嬢に背中をさすってもらっている。


「ミフッミフッ」

「ミフィリア……貴方なんでそんなに嬉しそうなのよ…………聖女様を目の敵にしているからってそれはさすがにまずいわよ」

「ミフー?」

「……すごい、これが本物のドラゴン」

「マーフェディア様はご覧になったことはありませんでしたの?この子は私の契約龍のミフィリアというの、誰にも危害は加えないわ」


今まで小さくなって私の髪の中に紛れていたから気づかなかったのか驚嘆の声を漏らすマーフェディアにミフィリアを紹介した。

ミフィリアは、なぜかマーフェディアの肩に飛び乗ると小さな手でポフポフと頭を撫でていた。慣れるの早くない?と思ったのは私だけでは無いはず。ミフィリアはレオン様やジル達に必要以上に近づこうとしなかったし、私から離れることすらなかったのに。


「そりゃあ、あんな事をしたんだから気に入られるだろうな……」


そう小さくレオン様が呟いたけど、あまり意味がわからなかった。







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