62、早速事件ですか……
ふかふかのミフィリアの背に乗る私。今日は待ちに待った領地へと出向く日だ。あの聖女様と大バトル案件から少し経ったくらいで、学園にはその噂が広まっていたけど平民達にはまだ知らない人しかいなかったから、私を変な色眼鏡で見る人は少ないと思う。
「着いた、やっとこの時が来たのね……」
感慨深く呟く私は、いつものふわふわゴテゴテドレスではなく、スタイリッシュなスーツ姿。渋るお父様にオネダリして、貴族方に会わないように気をつけることとメイリーン家全員に着ているところを見せる事を条件に作ってもらったのだ。
胸までの丈の短いジャケットは、くるみボタンを沢山規則的につけてあるし、装飾も最低限だからいつものドレスよりも私はこっちが好き。ハイウエストのスラリとしたズボンは一番苦労した。この世界では女性がズボンを穿くなんて聞いたことがないので、お父様だけでなくお母様にも止められた。
でも、前世ではスカートを履くことの方が少なかった人生でしたから頑張ってゆずりませんでしたわ。
お父様の仕事着を作ってくださっているところに頼んだらしいから、やっぱり軍服チックでかわいい。
私のストロベリーブロンドも高い位置でポニーテールにしているからキャリアウーマン感が半端ない。顔がキツめだから、鬼教官っぽさも出てる気がするけど。
「ミフー!」
「ミフィリアありがとう、もう戻っていいわよ?」
そこらの貴族の本宅よりも大きいドラゴンの姿のミフィリアが、嬉しそうに笑って小さくなる。頼ってもらって嬉しいのだろうか、かわいい奴め。握りこぶしよりも一回り大きいくらいの大きさになったミフィリアが私の肩に乗る。定位置だ。
ミフィリアは本当に姿を消せたらしく、半信半疑で飛んでいたけど全く気づかれなかった。すごいな最上種。
「エリザベス様でしょうか?はじめまして、この村の代表のダニエルと申します」
「はじめまして、エリザベス・メイリーン伯爵令嬢です。よろしくお願いしますね」
目の前に現れたおじいちゃんは、お父様から紹介されたダニエルさんという人だ。立派なお髭をたくわえたおじいちゃんについて行って、この村の紹介をしてもらう。事前にもらった資料以外にもたくさんの発見があってとても楽しかったが、ほかの街とは比べられないくらい田舎感が満載だった。
なんかこういう雰囲気好きだけど、生活が苦しい人も少なくないから近くにスラムもどきが形成されているらしい。
これは早急に対応しなければ。
「ダニエルさん!また魔物が…………お客様ですか……」
「いえ、気にしないでください。それで、魔物がどうかしましたか?」
私とダニエルさんが歩いていると、どこからか若者が転がり込んで来た。泥だらけの格好から農夫か何かなのだろうか。
隣の私を見てかなり驚いて、恐縮していたけど気にしないように言って場所を教えてもらい、説明してもらった。
なんでも彼の畑で山から降りてきた魔物が作物を荒らしているらしいのだという。やっぱり、この村が廃れている原因は魔物が好き勝手やっているからなのだろう。
「ミフィリア!手伝ってくれるわよね?」
「ミフ!」
急にミフィリアが大きくなる。私が乗って来た時と同じくらいの大きさになったミフィリアが、彼の指さした畑の辺りらしい所まで飛び立って行った。
それに魂を抜かれたみたいに呆然とする彼の背中を強めに叩いて、先を急ぐ。
…………私体力無さすぎないか?数十メートル走っただけで息切れすごいんだけど。




