60、貴方ほんとに貴族なの?
「先程から貴女は……エリィ様に口を開けば失言しかしないなんて!」
「確かに、さすがに聖女様だからってメイリーン伯爵令嬢に対して失礼が過ぎると思うな?」
イヴちゃんとリューが一歩前に出て私とアイナ嬢の間に立った。
アイナ嬢がたじろぐが、皆気にせずに私を守るように囲んだ。悪役令嬢とその取り巻きみたいだけど、悪役令嬢の割に取り巻きが豪華過ぎる気がする。
「まず女性から正式なエスコートを親しくもない男性に頼むなんてはしたないですわ。しかも相手はこの国の王太子殿下であり、指折りの名家であるメイリーン家のご令嬢の婚約者。身分違いも甚だしい」
「そんな……!私はお慕いしているレオンハルト様にエスコートして欲しかっただけで……確かに私は男爵令嬢ですが聖女でもあります!聖女生誕祭くらいいいじゃないですか……」
「それがダメだと言っているんだろう!」
ジルが大声でアイナ嬢の言葉を絶った。
ビクリと肩を跳ねらせるアイナ嬢は、悪い狼に食べられる前の子兎のようで心臓がスっと冷えた。この子は自分の言ったことを理解していないのだろうか。
「婚約者がいる中で他の女性をエスコートするなんて言語道断、お前だけでなくレオンハルトも評判が悪くなる。しかも婚約者のエリィの前で『お慕いしている』だぁ?お前馬鹿なんじゃねえの?」
「そんな……!そんな言い方ないじゃないですか!」
あぁ、泣いちゃった。
それに余計に触発されるイヴちゃんは爆発寸前というか、もう限界突破してるというか。また食って掛かろうとするイヴちゃんを片手で止めて、微笑みかけた。
ここまで皆に散々言われているアイナ嬢の姿に同情しないでもないけど、私にだって言いたいことくらいある。
「アイナ嬢」
「エ、エリザベス様!私、いけなかったかもしれませんが……」
「私は今回の件は謝罪すら受けるつもりはありませんの。私とレオン様を表立って侮辱したのだもの、当然でしょう?それとも、また私が許してさしあげるとでも思っていて?」
綺麗に微笑みながら、ことりと頭を傾げた。
悪役令嬢が、この国の権力という権力を取り巻きにして、しかも背後にいかにも喰われそうなどでかいドラゴンがいるのだ。私がアイナ嬢の立場だったら気絶する自信あるもんね。
「…………そうそう、聖女だからどうとか仰っていらっしゃるけど、それならば早く世界的な飢饉をお救いになってくださる?私なんかに構う必要ないんじゃなくって?」
アイナ嬢はボロボロと大粒の涙を流しながら、私達を、正確には私だけを睨み付ける。しっかりと目が合って、大して怖くもない睨みを受けたところで私が怯むとでも?ここで喧嘩を買うのは、やっぱり私の立場を悪くするだけなんだけど、さすがに貴族でも上流階級の私が何もしないなんて、それこそ立場を悪くするからね。それに今の私は、貴女が聖女だろうと何だろうと関係無く、自分自身で飢饉を救おうと決心したのだから怖くはないわ。貴女に何をされても私はそれを跳ね返すだけの力は付けてきたつもりなの。もし私のせいで、家族やレオン様達に火の粉がかかるのであれば喜んで絶縁する覚悟だってしているのに。
…………それにしても、私結構攻略キャラ達のこと好きになり過ぎちゃったなぁ。




