59、未来予知?まさかぁ
「そういえば、この間言っていた作戦のことなんだけど」
「何かしらリュー?」
「あの時聞きそびれたままで、お父様に手を回してもらっている……って何を企んでいるんだい?」
あのミフィリア変化事件から数日経った後、「探検だ」と言いくるめて皆と中庭を散策していると、突然結構昔の話ではあるが優しく微笑みながら私に問いかけるリュー。彼は大物である。しかし私も対抗するように胸を張りながら人差し指を立てた。チッチッチ、とわざとらしくもったいぶってニヤリと笑って話し始める。
「今、世界的な飢饉が起こっているでしょう?ここ、リスタニア王国にその魔の手が迫っているのは考えなくても分かるわ。だから、お父様に領地運営に着手させてもらおうかと思ってるの」
「……でも、この学園にいる内は難しいんじゃないのか?領地には頻繁に行けないだろう?」
「ジルさすがね!私もそこはどうしようかと悩んだの、でもね?私にはミフィリアちゃんがいるのよ!」
バンッと効果音がつきそうなくらいに自慢すると、ミフィリアが満足気に鼻を鳴らした。かわいい奴め。
そのまま私の肩口から飛び降りて、白い煙をボフンと大量に発生させた。皆も慣れたもので、これしきの煙では動じなくなっている。
「…………これは」
「そう!ミフィリアはドラゴンだし、変化もできる!つまり、ミフィリアに大きくなってもらって空を飛んだら万事解決するんじゃねぇ?って思ったの!」
「でも、こんな大きなドラゴンが急に空を飛んだら皆が混乱するのでは?」
「大丈夫大丈夫、ミフィリアは姿を消すこともできるみたいだし、なんとかなるって!」
「お前ってたまに急激に賢くなって急激にアホになるよな」と、褒めてんのか貶めてんのかわからない言葉を口にしたジルに肘鉄を食らわせる。ゴスッと音がしたけど気にしないわ。だってジルなんだもの。レオン様ならばやらないけど、ジルだもの。
「1週間後、お父様からお手紙がくるはずだからそれまでの辛抱ね。忙しくなるわよ!」
「…………どうにかしてリズを引き止めておかないと、またどっか行くなこのままじゃまずい」
「レオン様どうされたの?ぶつぶつとらしくない」
どこか遠くに行ってしまったレオン様の前で手を振ったり、不敬ながらほっぺたつついたりしたけど、全くもって手応えがない。生きてる?どこぞの悪魔に蝋人形にされちゃったの?
「レオンハルト様!」
固まるレオン様にイタズラでもしてみようかと考えている途中、もはやテンプレなのだろうか、アイナ嬢が声をかけた。いつの間にこんな所にいたんだろう。私が学園探検を申し出たのは彼女が教室から出ていった後だと思うのだけど。
「1年後の私の誕生日に、『聖女生誕祭』が開かれることが決まりましたの!王太子様なのでご存知ですよね?なので、私をエスコートしていただく予約をしてほしくて!」
「聖女生誕祭……って何なんだ?」
「全世界で聖女様のご誕生をお祝いする祭りだ。祝日として先日決められたんだよ」
レオン様がジルの質問に、忌々しげに答える。アイナ嬢はかわいらしい笑顔のままレオン様だけを見つめているから、ほとんどゼロ距離にいる私にも、般若みたいなイヴちゃんにも気づいていないみたいだ。




