56、授業開始!ですわね
「はじめまして!僕は魔法生物を教えている、アレックス・ベルトだよ。気軽にアレク先生と呼んでくれ!ちなみに君達は何の精霊や魔物が好きかい?」
軽薄な……軟派な……人懐っこく?……挨拶をしたのは、アレックス・ベルトと名乗る青年だった。
ベルト、という苗字は聞いたことが無いため、かなりの下級貴族か平民出身なのだろう。なのに、おぼっちゃまおじょうちゃまだらけの学園でここまでマナーを無視した挨拶をしている彼を見てか、顔を顰めている人もしばしばいた。
ちなみに授業開始20秒程だが、私の彼に対する第一印象は『変人』になってしまったのは致し方ないことだと思う。
攻略キャラの中にもシークレットキャラの中にも属さない彼は、ニコニコと笑っている。
紫がかったストレートの黒髪は赤い紐でポニーテールにしてあって、動く度にサラサラと涼しげに揺れる。
笑う度に見える尖った犬歯も怪しげである。
長いまつ毛に縁取られた藤色のタレ目は、優しそうな印象をもたらすはずだが、胡散臭い印象しか持たせていない。モデルのような高身長もイケメンなのも相乗効果だろう。
顔のつくりは『セクシー系』という点ではリューと似通っているが、リューが『レディーキラー』であるなら彼は『ギャンブル依存症のホスト』だろう。ちなみに私はホストクラブに行ったことは無い。
「あぁっ!君は噂の『魔龍ガール』!」
「ま、魔龍ガールって?私のこと?」
急に指を指されたと思うと、ドタバタと忙しなく私の目の前へと近づいて来た。そして少年のような曇りなき眼で私を見つめ、その後私の膝の上で惰眠を貪るミフィリアをじっと見始める。
居心地悪くて、隣の席のレオン様に目線だけで助けを求めると、スマートに先生を言いくるめて私から離してくれた。今、私市場で貴方の株が爆上がり中ですわね。
「いやぁ……生きている内にドラゴンの最上種を見ることができるなんて夢みたいだな……しかも魔龍ガールは魔女と呼ばれて聖女と同じ時期に存在しているし、これは神に感謝だ……」
「あ、あの、先生?」
「なんだい魔龍ガール?」
この人大丈夫か?と思ったが、一応私の名前を訂正しておかないといけない。この人に魔龍ガールと呼ばれるなんて人の目が辛すぎる。
「私魔龍ガールではなくエリザベス・メイリーン伯爵令嬢ですわ、あまり人前でおかしな名前を使わないでいただけるとありがたいのですが……」
「そうか、すまない魔龍ガール。これからは人目のつく所ではエリザベス君と呼ぶよ」
だから呼ぶなって言っただろうが!人目ここもあるんですけど!
話聞いてんのこの人!?
レオン様をもう一度見るが、諦めろ、と言いたげに頭を撫でられた。ここでのボディタッチについては深く言及しませんが、助けてくださいよ!
全くクラスの空気を掴めていないが、頬を赤くしたままにアレックス先生は黒板に文字を書き始めた。私の要求はことごとく無視されたようだ。




