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52、逃げ場よ何処!


「あら?皆様ごきげんようございます!」


あれからイヴちゃんをジルがたたき起こし……あぁ、一応彼もジェントルマンの端くれだったのでそこまで手荒なことはしていない。

……一応言っておこう、『そこまで』手荒なことはしていないが。

それから校舎へとようやく入った矢先、聞き慣れた声が私達にかかった。


「あら?聖女様ではないですか、ごきげんよう」

「私皆様と同じ学園に通えてとても嬉しいです!この国の王太子殿下であるレオンハルト様に、伯爵家のジオラーク様、リュシュア様、もちろんエリザベス様とも一緒になれて嬉しいのですが……」

「えぇ、私は『魔女』らしいですからね?」


嫌味ったらしく笑うと、アイナ嬢は申し訳なさそうに眉を下げて小さくなった。

確か16歳になっても魔力量は子供の頃と変わらなかった、とジルがお茶会の時に言っていたはずなのにこの場の誰よりも……いや、私やジルやレオン様よりも制服の装飾がすごい。黄色い糸でこれでもかと刺繍が入っているし、遠目から見れば黒地の部分がほとんどないくらい。

忖度がえげつねぇですわね……


「そんなつもりはなかったんです……私の失言のせいでこんなことになるだなんて考えてもなくて」


いつものように涙目になって小さく震えるアイナ嬢を冷めた目でジルが見下ろす。このゲームの攻略キャラの中で一番背の低いキャラだけれども、前世の日本人男性を知る私からしたら結構高い方だ。

170は最低でもある、今の私より1、2cm彼の方が高いくらいだから。


「貴方達聖女様に何をしていらっしゃるの!」


突然後ろから声が聞こえたと思うと、影が私とアイナの間に入ってきた。ライムグリーンのショートボブに夕陽のようなオレンジ色の瞳を持つ純朴そうな女の子だ。

その子はアイナ嬢と敵対……しているつもりは無いがそう見えるであろう私達を見て目を見開く。

まぁ、伯爵位の者が3名とこの国の王太子殿下がいるから当たり前か。私の家に関しては伯爵位にもかかわらず公爵家と肩を並べる程の権力を持っているしね。一番怖いのは王太子のレオン様だろうけど。


「も、申し訳ございません。不躾ながらこの場での発言をお許しいただきたく存じます。ミリアンナ・コレアス侯爵令嬢 と申します」


ほう、貴女コレアス侯爵家の御方なのね?爵位で言うと私達伯爵家よりも上になるが、これまでの功績だとか地位だとか貢献度だとかで私メイリーン家よりも実際力はかなり下である。

つまるところ、公爵位以下の爵位にはあまり大きな差異はなく、王家からの評価や世間の風体がいいと、爵位が上の者よりも力をつけることが多々あるのだ。

私の家はそれの象徴みたいなものだし。


「私共は聖女様であるシトラル男爵令嬢を信仰しております。この世界では聖女様は絶対的存在であるべき御方です。私、聖女様を悲しませる行為は許しかねません!御無礼を承知で申しておりますが、『聖乙女教』の者としてどうか……」


そこで言葉をきった目の前の震える御令嬢を見て、小さくため息をつく。その光景を見てコソコソと皆が十中八九悪い噂を話しているのだろう。

そんな時、私は思ったのだ、「私詰んでね?」と。









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