51、レオン様は意外とすごい人ですね
なんとかイヴちゃんに周りの目のことについて説明して、まだ涙でぐちゃぐちゃの顔を私のハンカチで拭いた。
それでまた大泣きしてしまったけど……まぁそれは考えないでおこう。
「私はエリィ様の事が大好きです……お隣の席なんて天にも登る気持ちですわ。ですが、私がどれほどエリィ様を大好きでいてもエリィ様のお隣に立つべき御方は王太子殿下だけだと思っています。王太子殿下がエリィ様のためにあれほど動かれていたのも知っていますので……」
「ん?『私のために動かれていた』ってどういう」
「リズ?」
急に近くで聞こえた声に大袈裟にビクつく。
しかも今しがた話していた渦中の人物、レオン様だ。後ろには、お馴染みのジルとリューもいる。なんだかんだ仲良くなったんだね。
……それにしてもレオン様、なんか最近私を驚かせる登場しかしてないんじゃなくって?
「こんな所で何やってるんだい?遅れるよ?」
「いえ……って、先程までレオン様のお話をしていたんです!イヴちゃんが言ってました、『私のために動かれていた』ってどういうことなんですか!」
「……あぁ、それかぁ」
困ったように笑うレオン様は、若干咎めるようにイヴちゃんを見た。
瞬間イヴちゃんがしょぼんと萎んでしまったが、彼女は悪くないと守るようにレオン様の目線の前に立ってしっかりと見上げる。
「教えてください」
「えっと……」
「……教えてくださらないのであればこちらにも考えがあります。今日から私レオン様と一切お話いたしませんから」
「待ってごめんなさい話すからやめて」
「よろしいですわ」
ふんすと高い鼻を鳴らして胸を反ると、目を泳がせるレオン様の言葉を待った。
……がしかし、長い沈黙の後に聞こえたのはレオン様の声ではなく、後ろにいたジルとリューの声だった。
「お前って意外とたくさんの人の目を引くらしくてな?エリィの名前と立場を知ってもアピールしようとする命知らずもなかなか多かったんだよ」
「だから王太子殿下は『自分とエリィは仲睦まじく入る隙はない』って分からせるため社交界によく連れ出していたんだ」
「いやー、次から次へと湧いて出てくる奴らを必死に潰していく姿もさすが王太子殿下だな?笑顔の仮面は剥がれなかったぜ?」
ジルがニヤニヤとタチの悪い笑みを浮かべながらレオン様の肩に生意気に手を乗せて私に話し、リューがそれを呆れつつ見て、諦めたように話し始めた。渦中のレオン様は顔が引きつってなんとも言えない顔をしている。後でこの2人こっ酷く怒られるんだろうな。
「なるほど、『動かれていたこと』については私は何も言いませんが、イヴちゃんを睨んだことについては許しませんわ!イヴちゃんは私の大好きなお友達だと知っていてのことでしょう?」
また頬をふくらませて怒ると、捨てられた仔犬のようにシュンとしたレオン様が小さく「すまなかった」と謝る。まぁ、王太子殿下に謝られるなんてイヴちゃんが気を使うだろうからこれで許してやろう。
「ねぇエリィ、イザベルちゃんが大切なら『大好きなお友達』とか軽々しく言わないでね?この子そろそろ本当に死んじゃうから」
リューが白目をむいたイヴちゃんを抱え、少し咎めるように私にそう言った。
……今回は多分私が一番悪いのでしょうね。




