49、忘れてくださいね
額を肩口に押し付けて、熱くなった目頭の熱を逃すように目を閉じた。16歳とはいえ乙女ゲームのメイン攻略キャラなんだから何気ないことでキュンとくる。
私の中身は成人女性なのだけど……なぜ16歳の少年に負けなければならないんだ。解せぬ。
ていうかこんな時にそんな少女マンガかっていうセリフを吐くなんてずるいじゃないですか!まぁ、まだまだ決まってないですけどね。
「ミフー」
「…………」
「ミフィリア!ごめんなさい忘れてたわ、戻っていいわよ」
レオン様の指先が私の背中に触れた瞬間にミフィリアが鳴いた。
完全に忘れていたミフィリアの存在を思い出して、ガバッと体を離す。もういつも通りのエリザベスちゃんだ。
右耳の重みがなくなったかと思うと、そのまま肩に重さが移る。元の大きさに戻ったのだろう。
「……今舌打ちしました?」
「まさか、そんなわけないだろう?」
小さな違和感を感じ、近くにあるレオン様の顔を覗き込んで聞いてみるが、いつもの笑顔で否定された。小さかったから聞き間違いかもしれない。確かに、こんな王子らしい人がミフィリアに舌打ちなんてするはずないけどね。
まぁいっか、と気楽に流してミフィリアを撫でた。
「レオン様、本日は本当にありがとうございました。このドレスも、パーティーの時に私を連れ出してくださったことも、私を守ってくださるという言葉も、とても嬉しかったです」
「あぁ、でも……」
「先程のことは、なかったことにしてください。いくら婚約者であるとしても、こんな夜更けに男女が2人でいるのは褒められません」
ニコリと笑ってそう言うと、それと対照的にレオン様はグシャリと顔を歪ませた。そんな顔でもかっこいいだなんてやっぱりイケメンはすごいのね。でもほら、こういうところであっちに餌をまく必要はないと思うのだよ。
「わかった。君の言う通りだと俺も思う。だけどさっき言ったことは本当だから、いつでも俺を頼って?」
「……ありがとうございます」
また差し出された手にゆっくりと自分の手を重ねると、女性寮の方へと歩き出す。イヴちゃんの手よりもとても大きくて、骨や筋がはっきりとした男らしい手だ。一見女の子みたいな顔してるのに。
おっと失礼、第一印象女装似合うだろうなとかじゃないから。
そんな不敬罪待ったなしの印象なんて持ってないから。
レオン様にエスコートされて、また大きな通りに出る。
校舎の横に立つ大きな時計台の長針は、パーティー閉会の30分前の時刻を指していた。




