48、過激派って……
ホールから離れて、中庭へと移動する。
もちろん夜だから夜空が輝いているし、明かりもゴシック調の街灯のようなものが大きな道に少しあるくらいだから結構暗い。
でもそこは王子らしくエスコートしてくれた。かっこいい……かもしれない。
「話とは何でしょうか?」
「あぁ、聖女様のことだ」
月明かりが、日本人よりも少し彫りが深いレオン様の顔を照らして影をつくっている。シンとした場にコクリと喉がなって、ゆっくりと瞬きをした。
「光の魔法を使うだけでなく、彼女は聖女にも選ばれた。きっと周りは彼女を中心に動くだろう。それに比例して、魔物のミフィリアと契約している君や、君と仲がいい友人達に何かしらの影響があると思うんだ」
「えぇ、覚悟はしています」
あの場で私を『魔女』と呼んだのだから、ほぼ絶対そうなるでしょうね。私だけならともかく、何も関係ないジルやリューやイヴちゃんに飛び火するのは耐え難いし申し訳ないのだけど、彼らは気にするな、と笑ってくれたのだ。
とても嬉しかったけど私の戦いであるから、皆が傷つけられるのがどうしても納得できなかった。
「俺はこの立場だから、聖女、しかも光魔法を使う者には強く出ることも君を表立って守ることもできない」
「そうですわね……」
「ただ……」
そこで止めてニヤりと笑いかけられる。
なんか悪いこと考えてないですか?
「俺はこの国の王太子だ、だがリズ、君の婚約者でもある」
「というと?」
「自分の婚約者を守ってはいけないだなんて誰が言える?この国の王太子としては君を守れないが、婚約者としてならば好きに動ける」
ぐっと力強く私を抱き寄せて、額をコツンと合わせてまたニヤりと笑った。目の前の透き通る蒼の瞳に、極限まで目を見開いている私がしっかりと映っている。
「だから、俺に君を守らせて?俺では頼りないかもしれないけど……リズには聖女過激派みたいなエリザベス過激派がいるだろう?」
「なんですかそれ、イヴちゃんのことですか……」
「まぁそうだけど、ジオラークもリュシュアもミフィリアもリズのことを大切に思ってるし……リズにはご両親もお兄様もいるじゃないか」
困ったように眉尻を下げて笑うレオン様に、ふふっと笑う。きっと婚約解消事件がこたえているのだろう、と思い唐突に装飾の豪華なジャケットを伯爵令嬢としてあるまじきガサツさで引き寄せた。
きっとこれを見たら、サラか執事長にしこたま怒られるんだろうなぁ。まぁ、ここには誰もいないけど。
そして、驚くレオン様をよそに化粧がつかないようにポスンと肩口に頭を押し付ける。
「そういう時は『俺がいるから』って言った方がかっこいいです」
ガチりと固まったレオン様を無視して、そう独りごちた。




