44、誰ルートなのでしょうか?
そういえば、と寮の廊下をレオン様との約束の場所へ向かってサラを連れて歩きながら思い返す。
アイナ嬢は誰ルートを選択したのだろうか。
このゲームでは今夜のパーティーで1回目のルート選択イベントがあるはず。確か今までのストーリーは、
『馬車が壊れ急いで向かったものの入学式に遅れてしまったが、レオンハルト王太子殿下に聖堂の場所を教えてもらい、コケたところをジオラークに馬鹿にされながら助けられ、一緒にいたリュシュアに制服の汚れを取るためにハンカチを借りる。最後にマーフェディアという攻略キャラに門の護衛を誤魔化してもらい聖堂へ入り、聖女に選ばれる』
というもの。
このパーティーでは今出てきた4人からしか選べないが、2度目のルート選択イベントでは全キャラクターの中から選べるようになるはずである。
確かパーティーで最初に話しかけに行く人が選択したキャラなのだっけ?「今朝は助けてくれてありがとう」と周りの女の子の人だかりをかき分けて伝えるから彼らの記憶に残るのだったか。
「リズ!」
「レオン様、お待たせしましたか?」
「いや?……やっぱり君はとても美しいね、似合っているよ」
「……んえっ?……ありがとうございます」
とろけるような表情でそんなこと言うから変な声出たんだけど。
この顔あれでしょ?ハッピーエンドのエンディングスチルのヒロインを抱き上げながらの甘い笑顔だよね?
私このスチル見て友達に引かれるくらい興奮したんだから、そんなん生で見せるなんて私を殺す気ですか?殺されるのは断罪イベントだけだと思ってたのに、こんなところで命の危険を感じるとは……
「ねぇリズ、なんでそんなに距離をとるんだい?」
「……い、命の危険を察知しまして」
「どういうことかな?」と久しぶりのダークネスオーラをまとった笑顔で私の腰を抱き寄せるレオン様に顔がひきつる。
そうだった、貴方腹黒設定でしたよね?今まで情けない姿を見て……は失礼だけど、婚約解消しないでと死にものぐるいで私に擦り寄っていた姿を見ていたのだから忘れてたわ。
「……リズ、顔が赤」
「レオン様!早く参りましょうか!」
感動するような表情で私を見つめるレオン様に、誤魔化すように大声を出して急かす。
私の腰にまわった手に自分の手を添えながら引っ張ると、『不本意』と顔に書いてあるようなレオン様は渋々歩き出してくれた。
誤魔化せて……ないよねこれ?
「……こういうのは使用人の前でするものではないと思うのですが」
寮の目の前だと忘れている2人に見せつけられたサラは深いため息をついて、旦那様に定期的に出すお嬢様の報告書に、このことをきっちり書いてやろうと1人決意した。




