41、聖女誕生ですね
私の笑みに恐れおののいている皆を背に、イヴちゃんにエスコートされて水鏡から離れる。
本当はアイナ嬢だけを怖がらせるつもりだったのだけど、やっぱり天性の悪役顔のせいでこの場の全員を怖がらせる結果になってしまいました。
「……と、とりあえず続けましょうか」
シスターが焦ったように場を収め、近くのアイナ嬢を水鏡に近づけた。相変わらずイヴちゃんは、なんかこう……自主規制ワードをブツブツとつぶやいているし、ミフィリアは水鏡の前に立つアイナ嬢をしっかりと睨みつけている。
私の周りには変な人しかいないのでしょうか……
「……あの女の番ですか」
「えぇ、イヴちゃん『あの女』呼びはレディとしてやめた方がいいわよ?」
「はい!エリィ様が仰るならば、私はあの女をしっかりとアイナ嬢とお呼びいたしますわ!毎回内臓が千切れそうになっても、エリィ様の私のためのお言葉とあれば天にも昇る気持ちで」
「もういいから!あと、そこまで嫌なら人前以外ならそれを黙認するから!」
イヴちゃんと小声で話している隙にアイナ嬢が指を組んで水鏡を覗き込む。途端に水鏡が輝きだし、アイナ嬢を包み込んだ。そして水鏡から出た光はアイナ嬢の胸元にとどまり、パンッという軽やかな音をたてて弾け飛んだ。
光がおさまるとそこには太陽と翼をモチーフにした金色に輝くブローチがしっかりとついていた。
聖女を象徴する、本の中でしか見たことのないデザインのブローチだった。
「まぁ!貴女が聖女様なのね!」
シスターが興奮してアイナ嬢の手を取り叫んだ。
周りの子達も驚愕と羨望の混じった視線でアイナ嬢を見ている。
キラキラとした光の中で佇むアイナ嬢をまだミフィリアが唸りながら睨みつけているが、その唸り声も「ミフー……」という気の抜けるかわいらしい声だった。かわいい。
「聖女は末代までの光栄です。きっと辛いこともあるでしょう、ですが、その力を世界のために使い聖女としての務めを果たしてください。私達『聖乙女教』は貴女様を信仰すべき聖女様として認め、全面的に貴女様をお支えします」
シスターがアイナ嬢に跪きながらそう伝えると、アイナ嬢はくるりと振り返り私達を見回した。
「微力ながら聖女として皆様のお力になれるように頑張ります!聖女は世界に祝福をもたらし、魔物の力を抑えるために存在すると幼い頃に本で読みました。私も歴代の聖女様のようになりたいと思っています」
そう言って、私の方を見た。
……なるほど、これが彼女なりの宣戦布告というやつだろうか。




