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40、強そう……だったかしら?


つかつかとこちらに向かい、私に追いつくと淑女の礼をひとつしてシスターの方を向いた。


「シスター、エリザベス様は魔物と契約していらっしゃります。しかもドラゴンとです。残虐で聖なる力と相反するものと契約しているエリザベス様は……失礼と承知ですが、『聖乙女の水鏡』を穢してしまう恐れがあります」

「貴女……!エリィ様に何たる侮辱を……」


しっかりとシスターの目を見すえて、最後に悲しむように目を伏せたアイナ嬢に周りの喧騒がピタリと止む。

唯一食ってかかるのは顔を真っ赤にして怒るイヴちゃんと、アイナ嬢を睨みつけるミフィリアだけだ。


「そうね、私は『幻影の魔龍』とか呼ばれているこの子と契約しているわ。でも、聖女の力を有する水鏡が私ごときの力で穢されてしまうのかしら?」


『幻影の魔龍』の単語にシスターや御令嬢達がざわめくが、アイナ嬢をしっかりと見つめて挑発するように返した。

ゲーム内でヒロインに好戦的なセリフをよく話すので、その時の記憶を元に悪役っぽく決めるのだ。

高い身長を活かして上から目線で、前世では雑誌の表紙を飾れるくらいの胸を張って余裕を見せる。

彼女に勝つには素の私だけでなく、芯の強く気高いゲームのエリザベスも必要だと考えての作戦だ。


「『幻影の魔龍』だなんてドラゴンの最上種ではないですか……そんな魔物ならどんな力を持っていてもおかしくないです!」


顔面蒼白で顔を覆うアイナ嬢に、ほとんどの御令嬢達が目を見合わせた。「確かに、最上種ならば怖い」と話しているのでしょう。まあまあ、そんなこと想定の範囲内ですわ。


「えぇ、この子は一国どころか世界も滅ぼせる力を持っています」


周りのざわめきがより一層大きくなり、中には倒れ込む方もいた。シスターは指を組んで聖女に祈りを捧げている。貴女『聖乙女教』の方だったのね?もしかしてお兄様が言っていた教師って貴女のことだったのかしら?でも彼女は講義をしないらしいから……もしかしたらその宗派が思いのほか多いのかもしれないわ。

リスタニア王国には国教があるわけではないから、そこまでいないと思っていたけど。


「皆様が私、エリザベス・メイリーン伯爵令嬢を信頼できないのだと仰るのであれば、辞退致しますよ?」


ニコリと笑って周りを見渡すと、誰も何も言わずに目を逸らす。

つまりはそういうことなのだろう。


「……そうですか、皆様が私 エリザベス・メイリーン伯爵令嬢を信頼できないと判断されたので、私は辞退させていただきますわ」


嫌味ったらしくファミリーネームもお父様の肩書きも使ってハッタリをかます。内心心臓バクバクだし、手汗が半端ないんだけど。

皆メイリーン伯爵家が動くかもしれないと青ざめている。もちろんお父様とお兄様ならばここの全員を潰しかねないけどね。


「では私の事など気にせずにお続けになって?」


重ねたままのイヴちゃんの手を握りしめて不安を飲み込んだ。






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