39、さっさと終わらせましょう
「ここ数十年は、誰一人として『聖乙女の水鏡』に選ばれる聖女様はいらっしゃりません。最近は魔物の動きも活発になってきておりますので、この場で新たな聖女様が誕生されるのを祈っておりますわ」
シスターの格好をした綺麗な女性の先生は聖堂の本物のシスターらしく、胸に手をあてて静かに微笑んだ。
すごい、びっくりするくらい神々しいわ。後光が見えるもの。
「では一列になって?そして水鏡を覗き込み、胸の前で指を組んで祈ってくださいね?」
たくさんの人が一列に並んで、希望に満ち溢れた顔で水鏡を覗き込んで指を組んで祈る。
きっとアイナ嬢が聖女になるのだから貴女達には水鏡は反応しないのだ。残念そうにして戻る者しかおらず、中には泣き出す子や、水鏡に掴みかかって叫ぶ子もいて、神聖な儀式も粛々と……とはいかないようです。
「それでは行ってまいります。エリィ様」
私達は列の最後の方に追いやられてしまったので、やっと私達の番になりイヴちゃんが水鏡に近づいて、すっと指を組んで祈る。もちろん何も起こらない。それを見て残りの子達は安堵の息をついたが、イヴちゃんは清々しい顔で私の方へ戻ってくる。
「エリィ様もどうぞ」
エスコートするように私の順番を譲ったイヴちゃんに連れられ、水鏡の前へと歩み寄った。手紙に『いつでもエリィ様を助けられるように私女磨きしておりますの』とあったし、あぁ、でもこれは女磨きではなく男磨きではないだろうか。身長的に私がエスコートしているみたいなになっているけど、しっかり歩きやすいところを通ってゆっくりと手を引いてくれるところは、女の子なのにすごいと思う。
多分ジルよりもエスコート上手そうですわね。ジルのエスコート見たことないけど。
「お待ちください!」
私が水鏡の目の前に立ったところで、バンッ、と聖堂の大きな扉が開いた。逆光で顔が見えないが、聞き覚えのある可愛らしい高い声に傍らのイヴちゃんが小さく舌打ちする。
「エリザベス様、お待ちください」
堂々と光をバックに私の方へ歩いてくるのは、アイナ嬢だ。
ゲームの中のかわいらしいお顔のままで、優しく明るい微笑みをたたえてこちらへ向かっている。
そう、ゲーム内でも貴女は入学式に遅刻して私、エリザベス・メイリーン伯爵令嬢の後に聖女に選ばれたのよね?
今思えば、入学式に遅れるなんてかなり失礼な行為だけれどドジで憎めないヒロインになるには必要なことなのだろう。
それにしても……ゲームに私を引き止めるセリフなどあっただろうか?




