37、お久しぶりね、イヴちゃん!
私の肩にミフィリアが乗っているからかすれ違う人々にジロジロと見られたが、気にせずに背筋をシャンとして歩き続けた。時折甘えるように頬を擦り寄せてきたのが励ましのようで少し笑ってしまう。
「エリィ様!」
エントランスへと降りる階段をできるだけ優雅に降りていくと、どこからかイヴちゃんの声が聞こえた。
え?待って?まあまあの人数がエントランスに溜まっているからどこにいるかわかんないんだけど……
「……イ、イヴちゃん?」
「こちらですわ!」
人々の頭の中からピコピコと跳ねる赤を見つけて足を速めた。
小さな身長がチャームポイントのイヴちゃんは、13歳の時と身長はほとんど変わらず140センチ後半辺りだろうか、ちんちくりん……は失礼だけどかわいい。
「エリィ様は今日もお美しいですわ!私エリィ様が降りられている時に女神が舞い降りたのかと思いましたもの!あぁ、それにこの制服もエリィ様にお似合いで、透き通るような蒼に細かで繊細な刺繍もなんと表現するべきか」
「もういいから、ありがとうイヴちゃん。イヴちゃんの制服も素敵ね?赤のバラの刺繍が綺麗だわ……」
ニコリと笑って褒め返すとボフッと顔を赤くして、「女神降臨」とつぶやきながらゆっくり後ろへ倒れていった。
がしかし、どうやらイヴちゃんは進歩していたようで、2、3歩よろけるもしっかりと踏ん張り戻ってきた。体幹すごい。
「失礼しました。では参りましょうか」
「え、えぇ……行きましょうイヴちゃん」
何事も無かったように笑うイヴちゃんに不自然な返事が出てしまったが、気を取り直してまた優雅に歩き始めた。
ミフィリアもイヴちゃんと何度か会っているから明らかな敵意をむき出さなくなったけど、たまにどこかを睨みつけるようになったのだ。やはり人の多すぎる場所は苦手だったのだろうか。
「入学式はきっと退屈しちゃうわね」
「はい、失礼になりますが……やはりお話を聞くだけだなんてほんの少し退屈しちゃいます。ですが確か王太子殿下が生徒代表の挨拶をされるとか」
「そうなの?王族って大変だわ……」
「それに、入学式の後は『聖乙女の水鏡』の儀式がありますし」
そう言ってイヴちゃんは唇をかんで小さく息をついた。きっとその後の言葉にアイナ嬢が選ばれるだろう、と続くのだろう。
聖女に選ばれると、より彼女の力が強くなる。光魔法を使えるだけでここまで優遇されているのに、これにプラスして聖女となると世界はお祭り騒ぎになるはずだ。
「ミフー」
「でも、私には貴女達とミフィリアとスピカがいるわ。それがなによりもかけがえのない力だと思うの」
それに、私はそう簡単に負けてあげないんだから。
エリザベス・メイリーン らしく、好戦的な笑みを浮かべて前を見据えた。
眼下には次のステージが広がっている。




