番外3、兄の苦悩とバラの香り
はぁ、と何度目かのため息をついた。
僕、ウィシリオ・メイリーン には可愛らしい妹がいる。
もちろん彼女にため息の原因があるわけでもなく、あぁ、かわいすぎるという欠点はあるが、真の原因は彼女の立ち上げた商会だ。
新しい香水を『アロマ』と名付け、舞踏会の時に使用するだけでなく睡眠導入剤として部屋に焚くなどの新しい使用方も編み出したものだからたくさんの人から注文されている。
例の御令嬢と何かあった舞踏会で、試供品に火がつき瞬く間に広がっていった。おかげで女性のつけるものの中で香水とアロマの比率が半分くらいになっているようだ。
「ねぇエリィ」
「何ですか、お兄様?」
ほらかわいい。
元々メイリーン伯爵家は顔の整っている者が多いが、それでも群を抜いてエリィはかわいい。それに社交界では『氷雪の君』として有名だ。なんでも、氷を操る水の上級精霊と契約しているし、この世のものとは思えない程綺麗には整った顔は近寄り難い印象を与えているらしく、そう呼ばれているそうだ。
「レオンハルト殿下と婚約破棄する気はないかい?」
「お断りしますわ」
ほら、なぜかあいつにだけは執着を見せる。確かにとても整った顔をしていて地位的にも満点な相手だが、あいつはエリィに対して酷いことをしていたじゃないか。光魔法がなんだというのだ。この世にエリィ程大切な存在はいないだろうに。
「そういえばお兄様、お姉様とお散歩にでも行ってこられたら?」
エリィはとても察しがいい、僕の心が荒む前に話を変える。お姉様、とはつい最近婚約者から妻になった彼女のことだ。
もちろん僕も彼女のことを愛しているし、彼女も僕のことを愛してくれている。元は政略的なものだったが、愛とは後付けされるものでもあるらしい。
「エリザベス様、商会の拡大を……」
「わかりました、応接室を使いましょう」
こんな風に、商会の発展のせいでエリィは幼いながら引っ張りだこなのだ。昔のように、他愛もない話を数時間時間を忘れて話し込むことすらなくなった。
きっとエリィももう少ししたら嫁いでしまうのだから、こんな時くらいは僕ら家族に時間をくれてもいいと思うのだが。
「お兄様!それでは!」
それでも君が楽しそうに笑うのならば、それを兄として見守るしかないのだろうか。




