23、なんと今なら0円ですわ
「メイリーン伯爵令嬢」「王太子殿下」と四方八方から私達に声がかかる。レオン様にエスコートをお願いして舞踏会やらパーティやらに参加したのは何度かあったけど、やはり慣れない。
まぁ、王太子殿下とメイリーン伯爵令嬢のカップルは名前も見目麗しさでもビッグを軽く超えているし仕方ないだろうけど。
それにこの王子様は見た目だけでなく中身も完璧イケメンらしく、今日もお迎えの馬車内で「新しい香水かい?とてもいい香りだね」と気づいてくれたのだ。さすが乙女ゲームのメイン攻略キャラ、乙女心をガッチリ掴んでる。おかげで道中はアロマの開発と商品化について熱く語り合ってしまった。
「エ、エリィ様……」
「まぁ!イヴちゃんじゃない!ちょうどよかったわ、アロマの試作品を持って来たの。レオン様、少しはずしてもよろしくて?」
所在なさげに声を掛けてくれたたった一人の女の子の友達イヴちゃんに頬が緩み、上機嫌に腕を組むレオン様に聞いてみる。
すると快く笑顔で送り出してくれた。きっとすぐにたくさんのご令嬢に囲まれるのだろう、大丈夫、せめてもの情けでジルとリューの近くで別れて差し上げますわ。
「あの、アロマが完成されたのですか?」
「えぇ、貴方にはカモミールのアロマをあげるわ。香水のように付けてもらえる?」
「はい!ではさっそく」
「え?でも貴女香水も付けて……」
「いえいえ、こういうこともあろうかとエリィ様とお会いする時は香水を付けないようにしていましたの」
おぅ……なんだろう、ガチ勢すぎないか?でもこれは意外と嬉しい。こんなシチュエーションはなかなか無い宣伝タイムだろう。
イヴちゃんもそれがわかっているのか、透明なガラスの小瓶をゆっくりと開けてふわりと香りを充満させてから少量を手首に付けた。
たくさんの香水の中でも優しく素朴な香りは意外にも目立つようで、私の周りでいつ話の輪に入ろうかとやきもきしていたご令嬢達も恐る恐る声を掛けてくる。
「あ、あの……」
「ごきげんよう、私はエリザベス・メイリーン。このアロマに興味がおありで?」
にこりと笑って名乗ると、それからは他のご令嬢の名乗りラッシュでほとんど名前を覚えられなかったけど、在庫の全てのアロマは配り終えた。着いてきてもらった侍女に私の許可をもらったご令嬢やご夫人達が群がる光景はなかなかのものだったが結果は上々。
「イヴちゃん、ジルとリューのお母様や妹さんにもお渡しする約束をしているの」
「そうですね!参りましょうか!」
未だ人だかりの中心にいる2人の友人と婚約者の元へと急いだ。
しかし、私は気づかなかったのだ、人だかりの中心にはもう一人いたということに。




