15、初めての女の子のお友達ね!
どんどんエリザベスが悪役令嬢からズレて行ってる気がする。
終着点がどうなるかわかんなくなりそう。
「ですから、私がきっと『聖乙女の水鏡』に選ばれる聖女ですので、エリザベス様は、きっと、きっと!」
「先程から貴女!失礼にも程があってよ!」
いまだにアイナ嬢が心を無にしている私に向けて、自分が聖女になるはずと必死に弁明していると、どこからか大きな声が聞こえてきた。
「……貴女は」
「私はエリザベス・メイリーンですわ。どうされて?」
「失礼を承知で参りました。イザベル・ラシュキールでございます」
あまたの貴族のボンボン勢から飛び出してきたのは、イザベル・ラシュキールと名乗る少女。燃えるような赤髪にキリリと涼しげな紅茶色の瞳、悪役令嬢っぽさで言うと私とどっこいどっこいな見た目だけれど背が誰よりも小さい。その背のせいで、悪役令嬢感は無くなってかわいくなってしまっている。ちまちましてて、頭を撫でてあげたい衝動にかられますわ。
「貴女、シトラル男爵令嬢ですわよね?」
「え?あ、はい。申し遅れました。アイナ・シトラルです」
「シトラル嬢、貴女先程からメイリーン伯爵令嬢様に向かってなんたる失礼を犯しておりますの?シトラル家とメイリーン家では格の違いなど天地よりも大きい事をお忘れで?しかも、この国の王太子殿下に婚約者であるメイリーン伯爵令嬢様を差し置いてベタベタとくっついて……恥を知りなさい!」
アイナ嬢を見あげながら大声で捲し立てる。こういう怒り方は子供らしくてほっこりするけど……いやほっこりする熱量じゃないね。
うちの親の怒り方と報復の仕方が凄すぎるだけであって、あれ基準で見るとほっこりに感じちゃうんだ。私の感性が壊れていくよ。
「でも、婚約者がいるからって他の方と仲良くしてもいいでしょう?それもダメだなんてレオンハルト様が可哀想です!」
「貴女、王太子殿下をファーストネームで呼ぶだなんて、失礼にも程があると言っているでしょう!それに、仲良くする分にはいいけれどベタベタとくっつきすぎているのを注意しているのです!」
涙目でレオン様の腕を抱き締めて反論するため、イザベル嬢の怒りも最高潮へと登る。逆効果だってわかってやってんのかな?
それに女同士の喧嘩に関わらまいと、アイナ嬢の隣で空気に徹しているレオン様もレオン様だ。私と自分の立場を考えて早く引き剥がしなさいよ、使えないわね。副団長さん達も騒ぎに気づいているじゃないの。
……仕方ない、私が直々に収束してあげますか。
「イザベル嬢、アイナ嬢、ここはたくさんの目がありますから」
あれ?なんかこれ前に言わなかったっけ?
「ここは私の顔を立ててくださいますか?」
「ですがメイリーン伯爵令嬢様、彼女は王太子殿下に」
「いいのです」
「へ?」
「は?」
私の「いいのです」がかなり衝撃的だったのかイザベル嬢がご令嬢あるまじき変な声をあげてしまっている。
被さるようにレオン様も似たような声をあげた。
「だって、レオン様は私よりもアイナ嬢がお好きなのでしょう?私としてはいつでも婚約解消してもらって構わないので別にいいのです」
「で、でも、メイリーン伯爵令嬢様は王太子殿下のことを……」
「嫌いではないですが、新たに好きな人が出来れば身を引く所存ですわ」
それを聞いて、何故かレオン様が青ざめる。そして目にも止まらぬ速さで傍らのアイナ嬢をひっぺがした。イザベル嬢はそのまま呆けているから、すっと手を取る。頬が赤く染まった、かわいい。
「そんなことより!」
「そんなことより!?」
「レオン様うるさいですわ、婚約解消なら後でいくらでもして差し上げますからお黙りになって。……イザベル嬢、私貴女とお友達になりたいの、よろしければなってくれませんか?」
赤く染まった頬がより真っ赤に染まった。もはや赤すぎて黒くなりそうだ。なにこの恋する乙女が如き表情は、かわいい、かわいすぎる。
「ほ、ほほほ本当に、私なんかでよろしいのですか?」
「えぇ、私なんかではなく貴女がいいのよ。私、女の子のお友達が欲しかったの。そうね……皆からは、エリィと呼ばれているわ。レオンハルト殿下だけが、リズと呼んでいますけど、それで呼んでもよろしくてよ?」
「そそそんな、王太子殿下と同じだなんて恐れ多い。エリィ様でも私には身に余る光栄なのに」
「じゃあ、エリィね?私は……イザベルだからイヴと呼ぶわ」
そう言うが早いか、イザベル嬢もといイヴちゃんが「末代までの光栄……」と呟きながら倒れてしまった。
ちなみに隣に「嘘だ……リズに捨てられる……」と人聞きの悪い事を呟きながら倒れている王太子殿下の姿もあった。




