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王子さまが現れた!

いつもありがとうございます。

評価、非常に励みになっています。

 




 あのよくわからない騒動のあと、酔いのすっかり醒めたジョンさんは、わたしを玄関の外へ連れ出し(つまりあの乱入してきた第三者の目の届かないところ)謝罪した。


「ユーリ、こんな事になってすまない。キミを傷つけるつもりはなかった。

 ただ、何故だかわからないが、キミを見たときからずっと自分のもののような気がしていたんだ。

 やっと帰ってきてくれたような・・・」


 やっと帰ってきた?

 わたしがジョンさんのもの?

 それを聞いて、おやっと思った。

 それと言うのも・・・


「おかしなこと言ってるよな?俺にもよくわからないんだ。

 とにかく、また明日改めて話をしよう」

 わたしは慌てた。

 またこの気まずい状態を繰り返すのはイヤー。


「いえ、謝罪は受け入れましたし、その、わたしなら大丈夫ですから」

 と押し切るようにして帰らせた。




 で、部屋に戻ると謎の人物がキッチンのカウンターに寄りかかって、こちらをじっと鮮やかな青と緑の混じった美しい目で見ていた。


 信じられないくらい輝いてる黄金の髪は、ゆるくウェーブを描いて顔を縁取り、唇はカーブを描いて微笑んでいる。

 長い足をチャコールグレーのスラックスに包み、腕まくりをした身体にぴったりとしたシャツは、瞳の色と同じだ。

 より瞳の色を際立たせている。


「それで・・・」

 彼は腕を組むと、小首をかしげて訊ねた。

「彼はあのまま帰しても良かったのかい?」


 助けてくれたんだし、事情を説明したほうがいいかもと思ったけど、初対面だしそもそも誰なんだってことで、質問は無視した。

「あの、ありがとうございました。おかげで助かりました。

 それで、あなたはいったい・・・?」


 とたんに彼はぱっと顔を輝かせた。

 この美貌で笑顔になると、すさまじい威力だった。


 うぅっ、まぶしい。


「キミの作るフルーツは素晴らしいよ!昨日初めてキミの牧場から出荷されたマンゴーを見たときの、ボクの驚きがわかるかい?

 大きさは5Lもあるのに、味が大味なんてことはないし、果肉もやわらかくすじっぽくもない。

 最高だったよ!あんなのはボクのパティシエ人生で初めてだ。

 いや、パティシエ人生だけじゃない。ボクは今まで様々な美味しいとされるものを食べてきたけど、あれは衝撃だった。

 そして、今日の苺とりんごとぶどうだよ!」


 彼はつかつかとわたしに近づくと、両手でわたしの手を掴んだ。

「素晴らしかった。感動したよ」


「あ、あのう、ありがとうございます。牧場主のユーリです。気に入っていただけて嬉しいです」

 さりげなく手を引き抜きながら。


「ああ、申し訳ない。ボクもマナーがなってないな。

 改めてはじめまして。ボクは隣町で洋菓子店の経営とパティシエをしているアレクサンダー・フォン・バレンタインだ。

 そして、昨日今日とキミのフルーツを市場で買い占めたのはボクだ」

「ええっ?じゃ、昨日あんなにすごい値段で競り落としたのはあなた・・・!」

 彼はにっこりした。(うっ、まぶしい!)


「そうだ。でも、その価値は間違いなくあったよ。

 それで、こんな時間にお邪魔したのは、仕事の話なんだ。

 と、いうか知らなかったよ。

 まさかキミみたいな女の子が一人で牧場を経営していて、キミ一人であのフルーツを育ててるなんて・・・。

 いや、ボクの早とちりだ。てっきり熟練の職人みたいな男性を想像してたよ。

 それで、興奮して新しい生菓子を試作して、勢いのまま押しかけてこんな時間に・・・。すまなかった」


 そういうことでしたか。


「あの、とにかく座りませんか?お茶をいれます」

 キッチンに向かおうとしたわたしの手首を彼が掴んで振り向かせた。

「いや、キミは朝早いだろう。それに遅くまで女性一人の部屋にいつまでもいるわけにいかない。

 早速だけど、用件を言うよ。

 キミの牧場と、専属契約を結びたい」


「えっ」


「できれば農作物もすべて。それが無理ならとにかく、キミの作るフルーツだけでもうちですべて買い取りたい。うちの契約農家になって欲しい」


 彼は、呆然としたわたしの顔をうかがうように見た。


「どうかな、キミにとっても悪い話じゃないと思うけど」


 ハッ!しっかり、わたし!

「あの、できれば作物もって・・・、確かパティシエですよね?

 作物はどうして?それに、わたしはまだまだ畑を増やすつもりですし、お店だけじゃとても使い切れないと思いますけど」


「ああ、うちの城と兄弟それぞれにも勧めようと思っているんだ。だから心配ないよ」


「え、城?今、城って言いました?」

 白かな?うちのシロ(犬・オス3歳)かな?


 アレクサンダーが再び、愉快そうな表情でわたしを見つめた。

「ボクは、王子なんだ」


「王子!」


 彼は頷いた。

「そう。プリンス」


「プリンス!」

 バカ丸出しである。

 オウム返しってこういう風にして発生するのね・・・。


「そんなに堅苦しく考えなくてもいいんだ。ボクは6番目だから」にっこり。


 6番目!とまた叫びだしそうになって額に手をやった。

「ちょっと待ってください。頭痛くなってきた・・・」


「大丈夫かい?」

 外国人がよくやるように、片方の眉だけ上げてみせた。

 そういう仕草も様になる。


「王子さまって、初めて見ました。本当にいるんですね」


「キミ、面白いね」

 何故か嬉しそうに笑う6番目のプリンス。


『OH!ファンタスティック牧場』に、間違いなく王子さまは出てこなかった。


 アレクサンダー王子は、うちのフルーツを使ったケーキを何種類も持ってきてくれていて、銀の大皿に乗ったそれを出すと、「なるべく早く返事が欲しい」と言って爽やかに退場した。


「王子さまが作ったケーキ・・・」

 まるで、絵本みたいじゃない?




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 湯船につかりながら、後頭部をゴツンゴツンと浴槽のふちにぶつけた。


「あーあーあー、契約農家、かぁ」


 ふぁっ!それってもしかして 【王室御用達】 ってやつ?!


 ・・・。


 ふぅ。

 パパちゃんもママちゃんも、びっくりするだろうなぁ。

 まさかわたしが王子さま直々にお願いされたりとか、更に【王室御用達】ブランドを作り上げたなんて想像もしないだろうなぁ。


 どうしようかなぁ。

 確かに、悪い話じゃないよね。

 それに、アレクサンダーは「キミが断ったとしても、何も変わらないんだ。ボクが買い占めるだけだから。

 うちの店では最高のものしか使わない。そしてそれはキミのフルーツだ。だったらボクはそれを手に入れる」って言ってた。

 だったら何故契約するのか、の理由については、「できるだけ人を介入したくない」だった。

 つまりトムおじさんと、市場の人たち。

 ここを省略して、鮮度を維持したいそうな。


 ふ~む。


 ゴツンゴツンゴツン・・・。







 

6番目の人「いやぁ、トンネルが開通してなかったら、ヘリで来ようかと思ってたんだ」


異世界の人「ヘリ?!」


はい!これが王子クオリティ!

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