そして突然の修羅場
なんて言ったらいいのか・・・!!!
どうする?
どうする?!
目を泳がせていたら、サイモンが爆笑した。
「ははっ、すっげえ面白い顔してるぞ!」
もしかしたら怒るところだったのかもしれないけど、あんまり気持ちよく笑ってるので、一緒になって笑ってしまった。
からかわれただけだわ。
そりゃそうだ。レイチェルがいるもんね。
ゲームではサイモンは同級生のレイチェルと付き合ってた。
レイチェルは金髪のゴージャスな子で、いかにもチアリーダーにいそうな子で、実際メンバーだった。
レイチェルがタイプなら、わたしにはまったく興味を持てないだろうな。
レイチェルは町長の一人娘で、サイモンとはまるでロミオとジュリエットみたいな関係だった。
町長はサイモンと付き合うことを反対して、サイモンの父親にも娘には近づかせるなと圧力をかけていた。
サイモンの父親のカルロスは、図書館の責任者としての地位を脅かされ、それでも息子を応援したくて板挟みで苦しむのだった。
このゲーム、すっごく一人ひとりにドラマがあるんだよなぁ。
よく作りこんである。
牧場をほのぼの経営しながらも、人間関係がドラマティックなのだ。
「どこに停めようか?」
サイモンに聞かれて我に返った。
いつの間にかマイ牧場だった。
「ゲート入ってあのへんでお願い。じゃ、待ってる間お茶でもどうぞ」
バタバタ家に走り込むと、キッチンのカウンターで持っていたバッグを引っ掻き回した。
内ポケットを探ると、スグ見つかってホッとする。
こういうの探すとき、人を待たせてると焦るよね。
んで、渡して「じゃ、帰れグッバイ」ってなるのっておかしいよね?
ポケットに手を突っ込んで、部屋を見回してるサイモンに聞いた。
「なに飲む?」
「ん、いや俺、腹減ったから帰るよ」
手を差し出されたのでカギを渡すと、タイミングよくお腹が鳴った。
「くそっ、タイミング最悪かよ!」
ちょっと赤くなりながらサイモンがお腹を押さえたのを見て、笑ってしまった。
「あはは。あるあるだよね。出来てるご飯出すから、食べていきなよ」
そう言って、昨日採れたばかりの三つ葉と豚バラの炒めものを、ホカホカご飯の上に乗せて更に目玉焼きを乗せたワンプレートを出した。
目玉焼きには岩塩と胡椒が挽いてある。
アイテムボックス、最高。
『いつでも どこでも 出来立てをあなたに』
冷蔵庫から、朝作りおきしたアイスティーのピッチャーを出した。
アイスティーには、今朝採れたリンゴを割り入れて、香りと味を足してる。
こうすると、すんご~~く美味しいの。
柑橘系や桃でも美味しいだろうなぁ。
今まで、桃はもったいなくてやったことないけど。
自分のグラスとサイモンのグラスに注ぐと、プレートの隣に置いた。
「お好みではちみつをどうぞ」
はちみつも置いて、マドラーも勝手にグラスに突っ込んでやった。
あっという間に用意されたので、観念したのか、あるいは匂いに釣られたか、椅子に座って食べ始めた。
「うまっ」
「でっしょー。わたし三つ葉大好きなんだー。
豚肉との相性が最高なんだよね。
にんにくのみじん切りを利かせて、ごま油で炒めて醤油まわしかけて、オイスターソース足すと、めっちゃ美味しくなるんだよ」
わたしは三つ葉がいかにメイン食材となりうるか、その秘められたポテンシャルについて熱く語りながら、カウンターの内側でサンドイッチ作りを始めた。
パンダベーカリーで買った茶色いパンをまな板に横2列、縦3枚の計6枚並べた。
左側のパンにはバターを塗って、右側のパンには粒マスタードを塗る。
右側の列にレタスをちぎってのせていく。
レタスに軽く塩を振ると、アイテムボックスから出した揚げたてのサーモンフライを、レタスの上にのせる。
(サーモンは網カゴにかかってたやつだよ)
レモンをサーモンフライの上でぎゅぎゅっとしぼって、二つ分には手作りのタルタルソースをたっぷりのせて、残りの一つには新たまねぎをスライスして作ったマリネをのせた。
仕上げに全部に揚げオニオンを振り掛けて、パンをかぶせてサンドした。
タルタルソースの方を直角に切って、マリネを乗せた方を対角線上に切って三角に仕上げた。
ナイフを入れると、ざくざくと揚げたてサーモンフライが音を立てた。
アイテムボックスに入れようとしたら、サイモンと目が合った。
「食べないの?」
「わたし?さっきソフトクリーム食べちゃったから」
「ああ」
サイモンはもう食べ終わってた。
「まだ食べられる?」
「うん。食べていいなら」
「どっちがいい?」
「タルタル」
即答。
差し出すと、彼はアイスティーを継ぎ足し、はちみつをだば~っと入れた。
だば~っと入れた。
入れ続けた。
をいをいをいいいい!と声を出さないようにするには、忍耐力のレベルを飛躍的に上げなければならなかった。
「うまっ。うまいね。この粒マスタード塗るのと、オニオンチップっていうの?これがまたいいね」
「ふふ、ありがと」
「あと、サーモンがぶりっとしてて、衣がサクサクでタルタルソースを惜しげもなく使ってるのがイイ。レモンが利いてるのもイイ」
「つまり、全部いいってことね?」
大きな口でかぶりつきながら、わたしを上目遣いで見つめた。
「ああ、全部、イイよ」
ちょ。
フェロモン出すのやめええええい!
わたしは咳払いした。
「お褒めに与り光栄ですわ」
サイモンは最後の一口を押し込むと、アイスティーを男らしく一気に飲み干した。
グラスをトンッと置くと「はぁ~、美味かった~」と椅子に寄りかかった。
「ごっそさん」
「どういたしまして」
彼はわたしに車の鍵を渡すと、スクーターに乗って帰っていった。
ふぅ。
なんかわからないけど、妙に疲れた。
午後はいつものルーティーン。
北の山で白リスちゃんへ貢物。
ベリーベリーをストックの為にせっせと摘む。
今日は白リスちゃんに逢えなかった。
ブランドリンゴを一つ、置いてきた。
おっきいから、持てるかしらん。
山を降りたら教会へ。
ブランドの苺とりんごとぶどうを捧げる。
「女神さま、いつも祝福をありがとうございます。お蔭様にて、こんなにたくさん実りました。お受け取りください」
感謝の気持ちでいっぱいです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マンゴータルトを作り終え、食べようかどうか迷っているとチャイムがなった。
「え、誰・・・」
時計を見ると10時半になるところだった。
今までこんな時間に人が来ることなかったのに。
タルトをアイテムボックスに移して、玄関を開けるとジョンさんが立っていた。
「あ、ジョンさん。こんばんは」
すぐに警戒心が湧き上がる。なんだか様子がおかしい。
妙に憔悴しきっているような・・・。
「こんな時間にすまない。話したいことがあって、来てしまった」
前髪をかき上げて、なにやら苦しそうな表情だけど・・・。
「なんでしょう?」
ごめんなさい、でも玄関で立ち話でお願いします。
なんとなく部屋に入れないように、ドアの真ん中に立ちふさがるようにした。
「昼間のことだよ。サイモンのヤツの車に乗ってただろ。あいつの車がまだ停まってるのが見えて、それで・・・。こんな時間にあいつはまだいるのかい?
もし困ってるんだったら、俺がちゃんと言ってやるから・・・」
大きな身体がドアから押し寄せてくるのを、押しとどめ・・・られなかった。
この人と身長が、余裕で20cm以上違うんだからあああ。
そしてお酒の匂いに気がついた。
うそ、酔っ払い?
「あの、ちょっと。サイモンはもうとっくに帰りましたよ。あの車はわたしのです。わたしがサイモンから買った・・・んじゃなくて・・・」
あぁん、説明面倒くさい。
そしてわたしが誰から何を買おうが、何を交換しようがこの人に説明する義理ない。
わたしが嘘をついていると思っているのか、わたしをどかして家の中を見ようと、両手で肩を掴まれた。
「車が必要だったのなら、相談してくれれば良かったのに。いつだって・・・俺は、キミを・・・」
抱きすくめられて必死で身体を引き離そうとする。
どうして?この間挨拶をしただけなのに、一体なんなのおお!
ゲームにこんな展開なかったよ?!
「ちょ、離して・・・っ」
誰かっ!
「嫌がってるじゃないか。よさないか、キミ!」
第三者の声とともに、ジョンさんの身体が離れた。
ふらつく足元をなんとか立て直すと、ジョンさんは腕を後ろに回されがっちり押さえられ、壁に押し付けられていた。
そして押さえてる人物……あなたは一体、ダレデスカ。
次回『目玉焼きには醤油かソースか?いや塩胡椒だ!』編を お送りしまーす。
天の声「嘘つくな」