ときメモは突然に
◇ ◆ 異世界 5日目 ◆ ◇
元いた世界のみなさん。お元気ですか。
わたしは今、ミルクティー片手に、目が、点になっております。
昨日出荷したブツの明細をタブレットで確認したら、マンゴーがどえらい金額で売れてました。
うわー、びっくりだ。何かの間違いなんじゃなかろうか。
あとで返金求められるのイヤだなぁ。
あ、それからシンディーさんからメールで、マンゴータルトのレシピ、いただきました!わーい!
時間できたら早速作ってみようっと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
うちのゲート脇の柵沿いに、<我ら一族>さん達が収穫したものを、一時的に置くための棚がある。
そこでわたしがチェックして、出荷するものと自分用に保管しておくものとに分けられるように。
その棚が作物でぎっしり埋まってた。
「なんでなんで、どうして?」
ターサイ・トマト・新ジャガ・新たま・うど・苺・マンゴー・ぶどう・りんご
「いや、女神の祝福にしても収穫が早くなるのと、収穫量が増えるのとダブルで効果がでてない?」
気のせいかなぁ・・・。
何しろ、畑は今やサッカーのコートほどの大きさがあるからなぁ。
収穫が早まっただけかな。
とりあえず、量が多すぎるので一旦全部アイテムボックスにしまって、トラックで出荷するものを出そう。
そうしよう。
そうして、トムおじさんのトラックをぎゅうぎゅうにしたった。
それからまた、収穫されて空いた畑を耕してどんどん種を蒔いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ぱるるるるるるるるるるるr
海沿いの道を、もう何度目だろうか真っ赤なスクーターで駆け抜ける。
このスクーターは、ログハウスのようにガチャや課金でレベルアップする前のボロボロかまぼこハウスだと、家の裏にずっと放置されていたボロボロのスクーター、となるわけだけど、家をレベルアップしてるとご覧の通り、ピカピカスクーターになるんでございます。
そうして、この海沿いの道を走ってると、ティーンエイジャーのサイモンが見かけて、交換を持ちかけてくる。
なにと?
それがね、古いピックアップトラックと。
何故にスクーターとピックアップを?のわけは、サイモン曰く「あんたの乗ってるスクーターはボロボロだけど、レアもんでコレクターの間でプレミアがついてんだ。だから、あんたはその・・・、牧場の経営者ってやつで荷物を載せて運べるトラックが必要だろ?」と言う訳で、わらしべ長者のようなそうでないような交換となるのだった。
海外のティーンエイジャーの男の子といえば、バイクもいいけど車だろって思うでしょ?(日本のゲームだけどね)
サイモンに抜かりはないよ。
プレミアつきのスクーターを自分で綺麗にしたあと(すでに綺麗なんだけど)ネットオークションで売ると、そのお金で新しい車(つっても中古だろうけど)が買えるんだって。
でも、「あのピックアップはたしかに古いけどよく走るし、もしなんかあれば、俺がいつでも無料で面倒見るから」らしい。
サイモンはお父さんと二人暮らしで、お父さんと一緒に町の図書館に住んでいる。
お父さんは図書館の司書と管理を任されていて、住み込みなのだ。
図書館で住み込みって、面白いよね?
このスクーター、別にピカピカだし、交換する必要はないっちゃないんだけど、雨の日や寒い日はバイクよりも車のほうが良いと思って。
それにボロボロでも、うまくいけば白リスちゃんに【カースプレー】をもらえる。
この【カースプレー】をピックアップに使うと、全塗装されるって仕組みなのだ!
魔法なアイテム。
しかも、【カースプレー赤】【カースプレー水色】など等、カラーバリエーションも豊富にあるのでお楽しみ要素もある。
スクーターを停めて、浜辺におりて買っておいたソフトクリームを食べていると、サイモンが近づいてくるのが見えた。
黒っぽい長めの髪に、膝のやぶけた黒いジーンズにブーツ、シングルのライダースジャケットというちょっと不良っぽい男の子だ。
せいいっぱい悪ぶってるけど、わたしの中身は25歳だし、弟もいるんだから高校生のサイモンなんて可愛い可愛い。
「んじゃ、そーゆーことでいいかよ?」
「うん。いいよ」
サイモンが早速、彼が乗ってきたピックアップを見せるというので、スクーターを引いて海辺の駐車場まで付いていこうとしたら、「俺がやる」とスクーターを押し始めた。
一瞬。
弟と一緒にスーパーへ買い物に行った時のことを思い出してしまった。
わたしの手から黙って、スーパーの袋を持ってくれたっけ。
突然、弟潤一郎への愛情に襲われ、胸がいっぱいになった。
涙がこみ上げた。
逢いたいな。
今、何してるんだろう。
サイモンはスクーターをピックアップトラックに載せ、わたしをそのまま車で牧場まで送ると言う。
「どうして?このまま交換で良くない?」
「いや、あんたが家に置いてあるっつー合鍵を受け取っておきたいし、この車を扱う上での注意点も話しておきたいから」
なるほど?
「重ステじゃないよね?」
スクーターが倒れないように、強力なゴムバンドで固定しているサイモンが肩越しにニヤリと笑った。
「重ステなんて、よく知ってるな」
「え、重ステなの?」
「いや、パワステ」
流れるようにスマートに荷台から降りると、助手席のドアを開けてくれた。
「ありがと」
乗り込むと、駐車場沿いの道路の向こう側から、ジョンがこっちを見ていた。
手を振ると、運転席に座ったサイモンの身体に遮られて、ジョンの反応はわからなかった。
「誰?」
車はスムーズに走り出した。
よし、エンジンも一発始動だったし、変な音もたててないし、車内も広いし、なかなかいいかも!
「大工のジョンさん」
「ああ」
「・・・ああ?」
「ああ」
わたしはサイモンの腕をパンチした。
「いって!なんだよ、一体」
「なによ、「ああ」って。かっこいいとでも思ってんの?全然!普通に喋りなさいよね!」
彼は叩かれた腕をわざとらしくさすりながら肩をすくめた。
「だって、別に言うことねーし」
「だって、別に言うことねーし」
ふざけて繰り返してやったら、くっくっくと笑った。
「あんた、全然都会の女っぽくねーんだな」
びっくりした。
「わたしが?都会の女?」
彼はまた肩をすくめた。
「みんなそう言ってる。着てるもんも、このへんの奴らとは違うし・・・」
彼が長い前髪の間から、射抜くようなブルーの瞳で、わたしの身体をさっと撫でるように見た。
◇(突然始まる)今日の コーデ ◇
・ベビーピンクのTシャツワンピ
・もこもこベビーブルーのパーカー
・白のレギンス
・白いハイカットスニーカー
あれ?
なんで急にこんな展開になってるの?
なんでか急に、車内が狭く感じてきた。
あれ?
あれあれーーーー?
ユーリ「サイモンなんて弟じゃん!弟じゃん!」
天の声「弟はあんな目で見てこないよ」
ユーリ「うわあああああん!」
次回、どうなる?