ベリーベリージャム【金】
ぐふふふふ。
不気味な笑い声が漏れてしまう。
だってだって。
カゴに山盛りいっぱいのベリーベリー【金】が!
コレでアレができる!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕焼けの中、山を降りるとマーケットに急ぐ。
カートに食品をポイポイ放り込む。
冷蔵庫がカラなんて、冗談じゃない。
牛乳・卵・コーヒー豆・バターにジャムに・・・。
「よう。新入りさん。」
顔をあげると、同じくカートを押して買い物中のトムおじさんが現れた!
「あんたがあの牧場に引っ越してきた新入りだろ?俺はトム。よろしくな」
「ユーリです。はじめまして。トムさん、よろしくお願いします」
トムさんはウチの隣に住むおヒゲの人で、ウチの牧場の収穫物をトラックに乗せておくと、回収して市場に売りに出してくれるのだ。
そんなトムさん、鼻の下から顎の下まで、ずっとヒゲのターン。
ゲームそのままに、頭には野球帽をかぶり、ラグラン袖のTシャツを着て、ジーンズをサスペンダーで吊っていた。
「俺があんたの出荷物の面倒を見ることになってんだ。あのオレンジのトラックが目印だからな。頼むぜ」
「はい。アリスさんから聞いています。お世話になります」
にっこりすると、心なしかトムおじさんが赤くなった気がした。
「なぁに、なんでもないこった。この町に新しい住人が来るなんざ久しぶりのことでな。町のみんながあんたが来るのを楽しみにしてたんだ」
「わたしもこの町で暮らすのを、楽しみにしてました」
「ま、なんかあったらいつでも言ってくんな。じゃ」
トムおじさんは若干もじもじしながら去っていった!
買い物を終えて家につく頃には、真っ暗になっていた。
早速食事作りをする。
お昼も食べずに、よく働いたなぁ、わたし。
ゲームでは色んな食事メニューが登場して、それも楽しみの一つだった。
今までは空想だけしていたあれやこれやのご馳走を、ちゃんと味わうことができるようになったのだ。
すてきんぐ。
マーケットで手に入る商品は、基本【銅】のもの。
これからは自分で作り上げた【金】の作物で、様々なメニューや加工品にも挑戦できる。
もちろん、【金】の作物で作ったものは【金】の評価になる。
ああ、ワクワクがとまらない!
さぁ、今夜のメニューはクリームシチュー。
野菜とチキンを煮込んでる間に、アレを作ろう。
アイテムボックスから沢山のベリーベリーを取り出すと、流水でよく洗い水気をしっかり切ったあと、ホーローのお鍋にいれる。
作るのは、ベリーベリーのジャム。
ブラウンシュガーに、隠し味の黒糖を加えて、じっくりコトコト・・・。
ベリーベリージャム【金】の出来上がり!
コレコレ、コレが必要なのよ。
このアイテムは、ある住民さんにプレゼントするために作ったの。
ふふふ。
早くあの人に逢いたいなぁ。
クリームシチューとパンで食事を済ませると、最後のひと仕事の為に外に出た。
敷地に生えてる木を何本か切りたくて。
そうしたらまぁ、なんと。
真っ暗だった。
当たり前か。
地面に設置するタイプのライトを購入しないとだなぁ。
諦めて中に戻ると、お風呂の用意をした。
30分後。
「ログハウスのお風呂、さーいこー!」
実家と違って、首まで浸かっても余裕で足が伸ばせる。
ジャグジーも付いてるし、頭の後ろから打たせ湯が出てきて、首や肩にいい感じで当たる。
すんばらしいいいい。
ハニーキャンドルのおかげで、甘くていい匂いが浴室中を満たしてるし、可愛いグリーンも置いてあるしで・・・。
「超癒やされるううううう」
お風呂上がり、ふっかふかの高級バスローブにくるまりながら、鏡に映る自分を見てびっくりした。
自分だけど、自分じゃなかった~~~!
元いた世界の自分じゃなくて、ゲームを始める時につくったアバターだった。
わお。
ピンクブラウンの髪に、グレーの瞳。
ふっくらピンクの唇に、つるんとしたホッペ。
「めっちゃ可愛い・・・」
ゲームを始める時の自分、グッジョブ!
「過去のお前に感謝・・・!!!」
そんなこんなで寝室に入ったときは、疲労困憊だった。
死んでからの~、怒涛の一日。
4~5人は軽く眠れそうな巨大なベッドに入り込んだら、あまりの気持ちよさににんまりした。
「明日は、朝からアレがくるはず・・・」
つぶやいた途端、朝まで一度も目を覚まさなかった。