キスと招き猫と爪あと
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イチジクの皮をむいて、櫛形にカットしていく。
それをクリームチーズ系のタルト台に、立体感が出るようドーム型に飾り付けていく。
カウンターで頬杖をつきながら、魔王がその作業をじっと眺めている。
夕飯を食べた後、魔王が「タルトが食べたい」と言うので作ってた。
と言っても、タルト台はすでに作ってあったので飾りつけだけ。
「お前が料理しているのを見るのが好きだ」
ポツリ、つぶやく魔王。
「ああ、それわかります」
元いた世界で、仕事帰りにカウンターだけの創作イタリアンみたいなお店に、時々食べに寄ったことを話した。
大きなL字型のカウンターで、中で黒縁のメガネかけて、顎鬚をおしゃれな感じに生やしたマツナガさんが1人でお店を切り盛りしていたっけ。
わたしもマツナガさんが料理しているのを見るのが好きだった。
捲くったシャツから伸びた腕、きちんと切った短い爪、肩にかけたフキン。
手際が良くて、清潔感があって、かっこよかったなぁ。
ふと我に返ると、魔王がじっと見つめていた。
「お前、そいつのことが好きだったのか?」
いつの間にかキッチン内にいて、ゆっくりと腕を組んで、何故か威圧感を出して見下ろしてくる。
「ちょっと、なに、なんですか、急にぃ」
思わずモックルを窺うと、ソファで大人しく寝ているようだ。
ここからじゃソファの背で見えないけど。
魔王の大きな手に顎を掴まれて、正面を向かされた。
顔が近づいてくる。
「ユーリ、お前…」
ちょちょちょ、顔が顔が、ちかちかちかい。
魔王の腕を掴んだけど、引き離したいのか、引き寄せたいのか、わからなかった。
ジュリアンの目が細められた。
「お前、料理のレベルが上がって効果が付加されているな」
「えっ」
魔王は手を離した。
慌てて確認する。
――――――――――――――
名 前 : ユーリ
属 性 : 異世界人
職 業 : 牧場主 レベル78
とくぎ : ・笑って誤魔化す レベル1
・ 料理 レベル100
・ 飼育 レベル51
スキル : 緑の指先
――――――――――――――
「ユーリ、自分のスキルの件もそうだが、じいさんの密造酒のこともあるし、マメに自分のスキルやアイテムを確認することを癖付けるんだ。
全体を見るだけじゃない。それぞれ1つずつピックアップして詳細確認するんだ」
「詳細確認?」
――――――――――――――
名 前 : ユーリ
【キャラネーム。本名は 相沢 百合子】
属 性 : 異世界人
【異世界へ来てから3カ月と19日目】
職 業 : 牧場主 レベル78
【ホーリー・ヒル1番の牧場の経営者】
とくぎ : ・笑って誤魔化す レベル1
【本人は必殺だと思っているが、ほとんど効果のないしょぼい技】
・ 料理 レベル100
【作った料理を食べた者は、一定時間幸福状態が続く。
食材の評価が高い程効果も長く続く。
ちなみに中毒性はない】
・ 飼育 レベル51
【なかなか良い飼い主】
スキル : 緑の指先
【植物をどのような状況下においても最高の状態に育て上げることができる】
――――――――――――――
「ほ、んとだー」
って笑ってごまかすの詳細、しょぼい技ってなにさっ。キー!
しかもレベルの上がる気配すらないしっ!
「わかったか?いちいち確認しろよ。作った料理も確認しろ」
「…はぁ、わたしってば3カ月以上経ってるってのに、色んなこと知らないまま過ごしてた…」
俯いてため息をついた。
もし魔王に教えてもらわなかったら、どうなってたんだろう。
魔王の手がわたしの顎をまたしても掴んで、顔を持ち上げた。
そして、手の甲でほっぺたを優しくなでた。
なんだか、もしかして、愛おしそうな目で見られて・・・・・・ないな。
むしろ段々険しく?
「おい、こいつはなんだ」
うなじの上をぐっと掴まれて、反対の手でおでこをごしごし擦られた。
「いたたっ、なによ、突然?」
逃れようとしたけど、無理だった。
擦っていた手で、額にかかっていた前髪をなで上げられると、ゾクッとした。
足元から力が抜けていくような・・・。
そのまま魔王の顔が降りてきて、おでこに唇を押し当てられた。
(ええっ・・・)
もう完全に力が抜けて、ぐったりと身体を預けてしまっていた。
魔王の片腕が腰に回り、しっかりと抱き寄せられる。
もう片方の手が後頭部に添えられて、胸元に頬を付けられた。
どこまでも、ぴったりとくっついてる。魔王と。
シールみたいに、ぴったりと・・・。
どれくらいそのままでいただろうか。
あんまりにも頭がくらくらして、そして、なんだかどうしてか、すごくぼーっとして気持ちよくて、何も考えられなかった。
クーラーが効いた部屋で、魔王はあったかくて、おっきくて、頬にあたる胸元が硬いんだけどふんわりしてて、思わずすりすりしたくなるような・・・。
ゆっくりと魔王が身体を離して、わたしのぼんやりした目を覗き込んだ。
ふらふらしたわたしがひっくり返らないように、両腕を掴んだまま。
「他の男に簡単にキスなんかされるんじゃない」
その言葉が、知能を失ったわたしがちゃんと理解できるまで待つと、完全に手を離した。
「そろそろモックルを連れて帰らないと」
ソファに向かう魔王の背中に向かって聞く。
「魔王になら(キスされても)良いってわけ?」
ちゃんと声が出た自分を、褒めたいと思う。
肩越しにわたしを見ると、真剣な顔で頷いた。
「ああ、そうだ。俺にしとけ。俺だけにな」
顔が熱い。
まっかになってるに違いない。
くるっと背中を向けて、キッチンに向かった。
「さっきのタルト、お土産に持ってって」
「ありがとう」
イチジクタルトを大きなお皿に乗せる。
魔王はわたしと同じく、無制限のアイテムボックスを持っている。
時間経過もないし、いつでも新鮮なまま食べてもらえる。
「おい」
「なに?」
顔を上げると、魔王がソファの所で手を振って、おいでおいでをしていた。
(?)と思いながら近づいていくと
「コレ、気に入ったみたいで抱いて離さないんだ」
「どれ?」
ソファに手をかけて覗き込むと、モックルが気持ち良さそうに寝ている。
両腕に、招き猫を抱えたまま。
招き猫って・・・。
招き猫って・・・・・・。
えええええええええええええええええ?!
嘘でしょ、なんであるの?
「あ、もしかして、これモックルの?うちに持ってきたとか?」
よく小さい子って、お出かけするときにお気に入りのおもちゃとか持参するもんね!
あるあるぅ~。
「いや、前からお前のうちにあったぞ。TVの横に飾られてた」
「うそっ」
「うそじゃない」
愉快そうな顔でわたしを見ている。
「なんだ。コレがどうしたって言うんだ。これがあると困るのか?
便利じゃないか。みんな親切にしてくれるぞ」
そりゃ、便利だとは思うけど・・・。
でも、それがあるから王子やジョンや、サイモンとかが一緒にいるとなんかこう・・・。
みんながああやって近づいてくるのは、招き猫のせいかも。
魔王だって、そうかも・・・。
わたしはじっと魔王の目をじっと見た。
そうだよ、だから矛盾してるんじゃない?
他の男にキスさせるなとか、俺だけにしとけとか言うクセに、高感度マックスになるアイテム持たせておいて、他の男が近づくのを気にしてないみたいな。
「なんなんだ、一体」
「うぅん。便利なアイテムだから、見つかって良かったなと思って。
あったの気づかなかった。灯台下暗しだったね」
わたしは必殺の(しょぼいらしいけど)【笑って誤魔化す】を使った。
「モックルこのまま持って帰っていいよ。後で返してね」
にっこり。
魔王はモックルを大事そうに、招き猫ごと抱えると、「じゃあな」と言って、姿を消した。
タルトとともに。
わたしの心に、小さな爪あとを残して。
次回「だんだんR15とかにしたほうが良い様な気がしてきたー!」をお送りします。
天の声「ジャロに連絡だ」




