経験者は強い
死んでしまった。
ゲームのやりすぎで。
まさかの 死因:ゲーム
パパちゃん、ママちゃん、潤一郎(弟)、こまめ(ニャンコ)
ごめん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ユーリさーん。ユーリさーん」
覚えのある名前を呼ばれて目をあけた。
眠っていたらしい。
声のしたほうを見ると、ミニバンの運転席から助手席にいるわたしに向かって、笑顔で微笑む女性がいた。
・・・どっかで見たことある。
「着きましたよ。ここがあなたの牧場ですよ」
「えっ?」
窓の外を見ると、立派なログハウスが建っているのが見えた。
あれ・・・、このログハウスって・・・。
「うっそじゃん・・・」
呆然とするわたしを残して、運転席の女性は車を降りた。
慌てて自分も車を降りて、あたりを見回した。
ゲームの世界を。
わたしが死ぬ間際までやっていたゲーム『OH!ファンタスティック牧場』の世界を。
運転してきた女性はアリスと言って、ゲームを始めたときに、土地までプレイヤーを案内してくれる女性だ。
ユーリというのは、わたしのプレイヤー名。
よかった。適当に「あああ」とかにしなくて。
恥ずか死ぬわ。
アリスは町の話や、牧場のシステムについて説明すると、わたしに鍵を渡してにっこりした。
「わたしはいつでも町役場にいますから、わからないことがあったら何でも聞きにきてくださいね」
「はい。ありがとうございます。これからどうぞよろしくお願いします」
車で去っていくアリスを見送ると、改めてログハウスを見上げた。
初見では、ここはボロボロの赤い壁の、小さなかまぼこ型ハウスなのだ。
ハウスはゲームを進めるごとに、自分で改装したりガチャで手に入れたりしてグレードアップできる。
これは課金パワーでガチャをやりまくり手に入れた、夢のログハウス!
鍵を開けて扉を開くと、思わず歓声をあげた。
「うわー!きれーい!」
走り出してリビングに飛び込む。
外側は丸太仕様だけど、中の壁は平らで白く塗ってある。
広々としたリビングは吹き抜けで、窓が一面にあり明るいし眺めも素晴らしい。
工芸品の美しいラグが敷き詰められていて、ゆったりとした巨大なソファにはたくさんクッションが置いてある。
もちろん薪ストーブもあるよ!
右手手前はオープンキッチンで、右手奥にダイニングスペースがある。
キッチンとダイニングの上が寝室。
キッチンは最新式で、うっとりするほど大きな冷蔵庫がある。
冷蔵庫を開けてみると、さすがに空だった。
「そうだ。アイテム確認しよう」
うれしいことに、農機具はすべてグレードアップ済みだった。
種も苗も、豊富にある。
感動のため息が出た。
「ああ、あんなに好きだった世界で、これから生きていけるなんて、なんてなんて素敵なの」
ッパッポー♪ッパッポー♪ッパッポー♪・・・・・・・。
鳩時計がないて午後12時を知らせた。
「ッハ!やれることをやらねば!」
外に飛び出して、ログハウスと畑との距離を測ると、耕運機で土を耕した。
うふふ。すでに鍬でさえないの。
うふふふふふふふふ。
畑を耕し、アイテムを確認する。
ゲームの始まりは4月。春植えの種を確認する。
現実世界だと、きっと細かく4月上旬はコレ、中旬にはアレって感じで決められてるんだろうけど、あるいは地域によってもズレが出たり。
でもこの『OH!ファンタスティック牧場』では楽々種まきができる。
季節に外れた種や苗は選択できないし、収穫までにかかる日数に気をつければいいだけ。
日数を超えて次の季節や月に入ってしまうと、せっかく植えたものは枯れてしまう。
さて。
とりあえず今日は、新じゃがとトマトを大量に。(大好物)
あとは三つ葉とルッコラを。
明日、また別のものを植えよう。
今日中に、アレを終わらせておきたい。
ちゃんと水をまくと、わたしは急いで北の山に向かった。
北の山に登るルートは二種類あって、普通の人は町役場とパン屋の間にある道をくねくねとあがって行くしかない。
それだと頂上へ行くまで時間がかかる。
実は大きな教会の裏に隠し階段があって、それをのぼれば頂上はスグだ。
ゲームでは。
ふぅふぅはぁはぁと息を切らしながら頂上についた。
そんなに高い山じゃないから、危険なことはないけど、つ、疲れた。
そして、わたしは光る果実を見回してほくそ笑んだ。
このゲームは、最初に収穫ができるまでが大変。
乏しいお金の中から種や農機具なんかを揃えるしで、カツカツなのである。
そこでココにびっしりと実っている、ベリーベリーを摘み取るのだ。
このベリーベリーはこの町『ホーリーヒル』のそこら中に生っているが、山の頂上のこの場所のだけは、果実の出来が【金】なのだ。
売値も高くなる。
ここで無料で手に入れて、高く売ってお金を少しでも稼ぐ!
しばらく採ると、祠を探した。
ベリーベリーの木に隠れて、小さな祠がある。
中にはお地蔵さんらしき石像があって、そこに持っている作物をお供えする。
しばらく目を離すとお供えが消えているから、またお供えする。
これを連続して十回やると、白いリスが現れてお友達になってくれる。
すると、次回から町の住民に関するお得な情報や、珍しいアイテムをくれるのだ。
必ずやっておきたいイベントだ。
そうして現れた、実際に見る白いリスの可愛さと言ったら・・・!!!
つぶらな黒い目。ふこふこのカールしっぽ!
目の高さに合わせてしゃがむと、ほっぺにたくさんベリーベリーが詰まってた。
なんという可愛さっ。
「じゃあ、おともらち」
口いっぱいにほうばっているので、もごもご言ってる・・・。
ぷぷぷ。
「はい。もうお友達ですね」
小さな手を差し出されたので、人差し指を近づけると、ぎゅっと握ってくれた。
胸キュンがすぎる。
ちょっとひんやりの、やわらかいお手手だった・・・。
さて、まだまだ終わらないよ。