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帝国の侵攻、国王と王子の対立

粟田はテレビ電話で日本の内閣情報官から報告を受けていた。


「王国の特別行事への派遣を決定して頂き、ありがとうございます」

『粟田君は上手く殿下の相談役をやれてる様だね」

「王国の政治に直接関わることがないので、日本との橋渡し役として言伝をしているだけですから」

『日本側も殿下のスムーズな対応にかなり助かっているよ。王国内の食料生産も順調に進んでいる。貧困農家への支援という形だったけど、王国側が過去の納税資料から貧困農家をピックアップして、貧困農家の一括雇用、彼らの農地の大規模借り上げまで、制度上の障害をほぼ取り除いてくれていたから』


アラック王国での、日本による農業生産事業は貧困農家への支援という形で実施されていた。その際、オズによる王国側の独自の法制度による障害に前もって、許認可審査を国王勅令という、ある意味トップダウンの方法で省略する、などの対応をしていた。


「殿下は二十歳と、自分と同い年ですがかなり優秀です。理論知識、実務から先を予見し、必要な対応を事前に取れるリスク管理能力、予期せぬトラブルを収拾する対応力もあります」

『お陰で帝国への対応を取ることができる。予測では1ヶ月後になるらしい』

「殿下は国王周囲の状況を注視しているみたいです。たぶん、帝国から何か要求があって、握り潰しているのかもしれません」

『帝国の情報収集は今、急いでいるけど、まだ転移から1ヶ月が経った程度では厳しいかな。哨戒機を上手く使ってやっと帝国が軍備を進めているって分かったから』

「衛星はどうですか」

『なんとか目処は立ったかな。静止通信衛星は半年後、超低高度・情報収集衛星と超低高度・通信衛星は1年後から打ち上げが始められる。一応、5年で整備できると考えてる』

「このネット回線は一体?」

『非常用バックアップの海底光ファイバーケーブルだよ。通信会社が緊急事態に備えていたのを使っている』

「そうですか」

『今後もよろしくね』



……………



1ヶ月後、アラック王国と日本の国交樹立記念式典が開催された。

この日の為に日本政府は、再び艦船や戦車、戦闘ヘリ、中距離地対空誘導弾などを派遣して、王子に近い役職付きの貴族向けに展示している。


同時期のアレフブラハム帝国は、アラック王国派遣の為の準備が整っていた。


「アラック王国からの返答は、引き続き、実施困難であり再考を求めると」

「そうか。我が帝国はこれから王都を一時的に占拠し、ニホン国側に更なる圧力を行使して、戦略兵器の引き渡しを要求する。これをアラックへの返答とする」


ランドヴァルド国防軍総司令官はアラック王国から南西に1千キロ、大陸の植民地にある港で指揮を執っていた。


「未開の土地は、かなり臭いな。だが、帝国の影響力をこの地域で維持するには、必要な処置だ。この人的資源が豊富な土地を未開の国に渡してはならない」


ランドヴァルドは帝国貴族らと話していた。ちなみに人的資源は奴隷を意味している。


「我が帝国は世界中から獲得した人的資源によって産業を発展させている。その重要な資源を確保することは国家発展に不可欠であり、そして我々が生きるこの時代の要請なのだ!期待しておりますぞ、閣下」

「正確に認識しております。我々は帝国の繁栄を盤石なものにすべく、努力するべきであると、当然の事と理解しております」

「閣下、よろしくお願いしますぞ」



その上空6千メートルではP-1が偵察任務を遂行していた。


「報告終了。結局、画像の共有もできませんね」

「衛星通信が使えないから当然だな。地上回線だと音声だけしか送信できない」

「これでも最近、改修されてチャット機能が付与されたんだ」

「まあ、ポケベルレベルですね」


アラック王国、王城の執務室では粟田が既に連絡を受けていた。


「オズ、帝国の艦隊が王国に進行を始めた。竜の編隊も観測されている」

「遂にこの時が来たか。準備は整った。移動する」

「わかった」


オズは粟田を連れて王城のバルコニーに出ると、大勢の人が眼下に広がる。


「この場にお集まりの皆、今日、新たな王国の友人となった、ニホン国との外交関係樹立、記念式典に来られた事、最大の感謝を表する」


オズは集まった王国の国民へ演説する。


「今日、隣にいる者はニホン国の国民であり、宰相付き相談役として尽力されている。現に、農業分野では貧困農家の生活水準の向上を図る為、ニホンの高度な技術を速やかに利用できるよう、王国側とニホン側の障害を取り除く業務を担当されている。既にニホンの高度な農具、奇異な農作業、を見かけた者もいるだろう。半年後には枯れた土地だった場所に、実り豊かな農地が広がるであろう」

「(オズ、射程圏内に竜の編隊が侵入した)」

「さあ、ニホンの祝砲を聞かせてもらおうではないか」


海上の艦船や陸上の中距離地対空誘導弾発射装置から噴煙を吐き、誘導弾が発射された。


「実に愉快だ」


戦闘ヘリも離陸し、王城を周回した後、戦闘域へ向かう。


「ニホンは我々の考え及ばぬ高度な技術を持つ。そして、我々に圧力を与えず、協力関係を結ぶ、非常に友好的で平和な国である。それは帝国とは全く異なる。我が王国はこれから、信頼を厚く重ね、この関係を繋げ、発展させて行く」


オズは演説を続ける。その頃、帝国軍アラック王国派遣部隊は、飛行部隊を先行させていた。まもなくアラック王国の国土上空に差し掛かろうしていた。


彼らは後続の第二次飛行、五騎で編隊を組んでいた。


「やっぱりガラ空きだな」

「それはほら……未開の地ですから」

「先行部隊から報告、前方より飛翔体を視認、高速で移動中!」

「特徴を報告しろ」

「白い槍の様な……通信途絶。応答せよ!」


応答はない。


「どうなっている!」

「反応、墜落パターンを示しています!」

「何だと!何騎墜ちた?」

「三、四……全騎墜落です!」

「全騎、戦闘態勢!編隊を解く」

「前方、正体不明の飛翔体を発見。高速で接近、白色……筒状、噴煙を排出しています」

「何!?」

「飛翔体、加速!なんだ、この速さ……避けきれ……」

「味方撃墜!撃墜されました!敵は飛行兵器を保有している!また来たか!速い!」

「榴弾放棄!軽くして逃げ……」


粟田には無線で連絡が既に入っていた。


「十騎、迎撃した。後続に八編隊、四十騎を確認している」

「さすがニホンだな。地上海上からワイバーンを墜とすとは」

「それより!」

「ああ、魔力波通信で墜落の報告が既に入っているだろう。議場に向かうぞ」


アラック王国基礎法典には、緊急事態条項に武力攻撃事態が規定されている。

武力攻撃事態が発生した場合、軍務局長または副局長(不在の場合は別途継承順位が規定されている)は閣僚を召集し、国王の同席した御前会議を開催する、と明記されている。


王国基礎法典、緊急事態条項に基づく政治局・外交局・王国軍合同御前会議


「皆様方、先程王国西部、ウェストコーストにて帝国のワイバーン騎編隊が上空に進入。しかし、なんらかのトラブルで墜落し、幸運にも投下弾による人的被害は出ていない」

「そうか」

「帝国側に死人を出してしまったが、事故であれば問題ない」

「そもそも我が王国は飛行兵器を保有していない」


「それだけかな?諸君」


オズが入室した。


「オズメットか。どうした?」


国王だった。


「現在、アレフブラハム帝国、ワイバーン騎四十騎が王国に接近しています」

「四十!」

「陛下、帝国は我々に何を要求しているのですか?今後、どんな方法でこの事態を収めるのでしょうか」

「何もない。会議次第で方針が決まるだろう」

「既に帝国ワイバーン、十騎を撃墜。後続の八編隊も捕捉しています」

「ワイバーンを撃墜!墜としただと!」

「オズメット殿下、それは流石に」

「静まれ!オズメット、撃墜したのはよもや、ニホン国なのか」

「まさか!」

「ワイバーン亜種とみられる戦闘ヘリは反対方向、東の空を飛んでいる」

「日本の軍艦は東側、式典会場のウェストラートに停泊している。帝国のワイバーンは西側、ウェストコーストの森に墜落している。距離は直線で40キロ、馬でも1時間はかかる」


軍総司令のレイモンドが位置関係を説明する。


「軍総司令、ニホン側から確認している」

「まさか、あの煙を吐いて飛んでいった槍なのか?陸上のユウドウ弾も似た槍を飛ばしていたが……」

「軍艦から発射された方は、発展型シースパロー。陸上の方は、03式中距離地対空誘導弾カイ。両方とも50キロ程度の射程がある砲の様なものです」

「ニホンにはそんな武器があるのか!」

「はい。誘導とは目標を追い掛ける。つまり、目標がどの様に逃げようとあれらの誘導弾は進路を変えられる。発射されれば、上空の目標に対して必中する」


「そんなモノ、あり得ん!」

「何を、一体どうやって……」

「魔法でも目標を人間の認識無しに追跡などできない。遠隔監視が限界だ!」


国王側近、政治局、学術研究所、それぞれの局長級の彼らが声を荒げる。


「どう思おうが構わない。だが、事実だ」

「オズメット、それは無断で他国の軍を王国の内に引き入れたと言うことか?」

「殿下、それは反逆行為に抵触しますぞ」

「反逆行為?王国は現に帝国から攻撃を受けているが、会議は何の対応もしていない。むしろ、帝国側の損害を気にしているように見える。その上攻撃を受けている周辺地域に何の警告も発出していない。この状況、わたしには会議は王国を帝国に売ろうとしている様にしか考えられない!」


「ほう、オズメット、お前はそのように考えたのか?」


国王はこみ上げる怒りを抑えるが、その声には確かに滲み出ていた。


「その通りだ」

「殿下、現在、王国は帝国から物流制限措置を受けています。これにより、王国の収入は7割以上が減少しており、王国民の生活を維持することは困難です」

「オズメット、この際だ。はっきり言おう。帝国は、ニホン国との関係を断つよう王国に要求している」

「詳細を申し上げると、ニホン国が哨戒騎と称する、戦略兵器を即時運用停止し、帝国へ引き渡すように、王国がニホン側に伝える様要求しています」

「既に期日を過ぎている。故に、帝国は我が王国に侵攻している」


「このまま、何もしない気か?」


オズは軽蔑の目で国王に問う。


「ああ、帝国軍へは攻撃しない。王国はニホン国との外交関係を断絶し、帝国へは対抗姿勢を示さず、このまま穏便にこの事態を収束させる」

「それが可能だと?」

「王国は貿易によって生きる糧の大半を得ている。帝国との争いは貿易そのものを放棄することと等しく、その結果は王国の破滅に行き着くだろう」

「ニホン国との関係、そして将来の可能性の全てを、見捨てると?」

「我らは今この時の平穏を求めている。将来、どれ程豊かであろうと今、平穏を保つことが重要なのだ」


「わかりました」


オズは議場を後にする。


「待て!オズメット。貴様、何をする気か?」

「……」


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