進む酒と新たな接触
「すごい豪華!」
政府代表団の随行員は、王城の歓迎会に招待された。
「たぶん金だよな……」
「粟田さん、単に豪華って事で良いじゃないですか?」
「そうかも……ですね。少し緊張してるのかも」
「あのカーテンの陰、ソファがあるから休んだら?」
「ああ、そうしようかな?ありがとう」
和真はソファで深いため息を吐く。その空間はカーテンで区切られ、照明がなく、天窓があった。いわゆる、隅の暗がり、と言う場所だった。
「少しいいか?」
「ええ、どうぞ」
豪華な服から貴族なのかと思った和真だったが、身長から年齢的に同年代だと分かると緊張を解いた。そして酒を飲み進める。
「この歓迎会、雰囲気が合わなかったか?」
「そうでもない。空気に当てられただけだと思う」
「そうか。唐突だが、名前を聞いてもいいか?」
「粟田 和真。フリーター……定職に就いてない」
「俺はオズだ。仕事か……王城で勤めている」
「真面目真面目!尊敬するよ」
オズと名乗る青年は皮肉に耳を貸さなかった。和真はかなり出来上がっている。
「そうか。国の事を聞いても良いか?」
「ああ、そうだな。社会問題だったら、超高齢社会、莫大な財政赤字、少子化、議員の数多過ぎ、官僚が国民を見下してるし、給料高いし、老々介護に介護離職、将来年金が減るかもーとか」
「色々出たが、わからない。それに酔ってるな」
和真は酔いが回り、語尾を伸ばす。
「っは、超高齢社会は年寄りが多いってことで、現役世代の負担が重いとか、議員も票稼ぎに年寄りの方へ向くから政治が偏る訳ー」
「票稼ぎとは?」
「議会の議員は国民が選挙で、立候補した国民から選ぶ。立候補は自分の政策を紹介して支持を集める。民主主義の基本だー」
「国民議会か。年配の人口が多いから、年配の層に票が集中する。年配の意向に沿った代表が選ばれることも容易くなる。なるほど」
オズは簡単に噛み砕いて確認を取る。
「おお!頭いいなー」
「財政赤字は国の収支だろう。ところで『ショウシカ』とは何だ?」
「子供が少なく変化すると書いて少子化。人口を維持できる程、子供が産まれない現象ー」
「子供が産まれない?どういう意味だ?」
オズは自身の常識から外れた物事に疑問を持つ。オズの常識では風俗街やスラムに行けば溢れており、それがある意味社会問題だ。だが少子化は真逆だった。
「育児にお金がかかーる、仕事で時間がなーい、将来不安で産めるが産まない選択をすることもあるなー。子供が起こすことに対する親個人の責任が重いとかー?」
「育児にそれ程金がかかるのか?」
「幼稚園から大学まで安くて一千万超!。でも、大卒が最低条件とか結構あるー」
「最低でも高等学術院(日本での大学と同等の学術機関)を出ているのか?」
「いや、そうでもない。学生全員の半分くらいだな」
「半分……とはかなり多いな」
「だから、大卒以外の就職は普通給料が低いー。大卒でも安い奴が増えーる」
「そうか。収入が不安定、低水準だから金がかかる子供を産まない、いや産めないのか。だが父親が忙しいからと母親は何をしている?」
「仕事だー仕事。仕事できる人口が減っているんだ、当たり前だろー?」
「女がか?」
「ああ、そういう事……ZZzzz」
「寝たのか」
和真は力尽き、寝落ちした。
「誰か居るか?この者をベッドまで運んで欲しい」
オズは付き人に声を掛け、運ぶ。
「面白い国らしい、楽しみだな」
……………
翌日の朝、和真が目を覚ました。
「え……どこ?」
繊細なレースの天蓋が視界に入り、和真自身は場違いに感じていた。
「服も替えられてるし、誰か隣で寝てる……」
慣れない部屋に動揺していると扉をノックする音が鳴った。
「失礼します」
そして扉が開く。入ってくるのは背が高く、貴公子のような青年だった。
「え……っと」
「おはよう、粟田さん」
「おはようございます。えっと……」
「私はタイガ・ライナフェルト、隣で眠られているオズメット殿下の護衛兼補佐役を務めている」
「自分は粟田 和真、特定の職に就いていないフリーターです」
「はい、存じております。殿下からお聞きしました」
「……殿下?」
「はい。その方はオズメット・アーク・ハーマン王太子殿下であらせられる」
「……オズというのは?」
「単なる略称です」
「……」
「っあっはははっ!っははは!」
突然隣で寝てた王子が笑い出した。
「ああ、悪い」
「えっと……」
「オズメット殿下、おはようございます」
「おい、普通に話せ」
「わかり……わかった、オズ」