表と裏
日本の位置を訂正しました。
アラック王国から東です。
ヘリコプター搭載護衛艦『いずも』一隻、両側に付くそれぞれミサイル護衛艦『きりしま』と汎用護衛艦『てるづき』と後方に輸送艦「おおすみ」の三隻、計四隻はアラック王国、港湾都市ウェストラートの軍港に向かっていた。
日本政府は、最新鋭の護衛艦、威圧感を帯びない艦数、補給、物資輸送、医療設備などを考慮して、政府は『四隻』と『ヘリコプター搭載護衛艦、一隻』の方針を定め、構成を自衛隊の専門組織が決定し、一時的な即席の特別編成艦隊とした。
「あれが、日本の軍艦……」
港から40キロ沖に待機していた警備船に、軍総司令長官のレイモンドが乗船していた。
アラック王国軍は、正規軍は数千人規模であり、空軍はない。
国土が大陸並みの島と群島で構成され、防衛戦略は海上に重点が置かれている。
その為、自衛隊の水陸機動団の様な海上と島嶼防衛を担う、海兵のみだった。
命令指揮系統は、陸海空に分かれておらず、一本化されている。
そして、総司令官は軍務局の長官が務める為、軍総司令長官と呼称される。
「灰色の大型艦、帆はなく、高速で航行するか……。さすが警備船のたった一門の砲で40隻の戦列艦を沈めた国の軍艦だな」
……………
まもなく、特別艦隊のそれぞれの護衛艦に、警備船から水先人が乗船した。
「アラック王国国境警備隊、ウェストラート沿岸地域統括本部所属、ランダートだ。この艦の水先人を担当します。安全な入港案内に努めさせて頂く」
……………
「船から船が出てくるぞ!」
「船が陸に上がるぞ!」
船底が深い護衛艦は湾内に停泊し、エアクッション艇で砂浜に上陸する。
ちょうど、アラック王国国王が出迎えに来ていた。
「これは陛下、港までのお出迎え、ありがとうございます!」
前回、対面した海上保安庁の木内が挨拶する。
言葉は双方、事前に調査していた。特に定型文は重点的に突き合わせている。
「構わぬ。……して、あれらの艦がニホンの新鋭艦か?」
「いずれも最も新しい軍属の船です」
「おお、そうか。ニホンの艦に載る砲は大きいが、軍艦まで一門しかないとはな。前と後ろの甲板はまだかなり空いているみたいだが……」
「以前の海上保安庁の巡視船と同様、十分という判断でしょう」
「私も詳しくないですから」と言って誤魔化す。
「そうだったな。確かに一隻で40隻も沈める艦もあるのだ、確かにな!」
「ご納得頂けて良かった」
「ああ、我も国王ではあるが、海外の事物に興味があるのでな」
「成る程。であればあのひと際大きい船などはほとんど空いていますし、何かの用途に特化しているということだと思われます」
「……」
……………
「今日の議題は、国交締結後に日本国がアラック王国に求めるモノ、コト、について。そして、アラック王国が日本国との国交締結によって得られるメリットとデメリット、王国側の懸念についてです」
日本側の進行が会議を開始する。国王の代理で、王子が出席していた。王子と横並びに座る文官からは特に挨拶なく、巻物の書類を広げ、速記をする。
「日本国が貴国に求めるモノは、農産物の輸出です。重量にして5500トン、詳細は後々、詰めようと考えています」
「我が王国は、ニホン側の輸出についての要望は、前回聞いている。概ね認められるものだった。言葉のやり取りに苦労はするが、精巧な絵付きの資料を基に、品目を照合した。我が王国では未知の品もあるが、事務官と協議して欲しい」
「前向きなお言葉、迅速な対応に感謝します」
「他にはあるのか?」
「日本国への農産物輸出について承諾を頂けた事は感謝します。それに関連して、運搬手段について懸念しています」
「どういう?」
「港の設備について、日本国の貨物船は本日、派遣した艦艇のヘリコプター搭載護衛艦、一番大きな船より大きく、接岸する為の設備を日本国で援助させて頂きたいのですが……」
「あの船より大きい船が……まあいい、設備増強について我が王国の国費から支出することで認めよう」
「ありがとうございます!」
……………
「次に、アラック王国が日本国との国交締結によって得られるメリットとデメリットについてです」
「日本国は以下の経済援助を準備しています。技術保全管理についての法整備を前提として、アラック王国へ『インフラ・経済成長パッケージ』として約3兆円の大規模投資を準備しています」
「為替で……金600トンだと!それ程資金があるのか?」
「資金については問題ありません」
「具体的に何をする?」
「インフラ整備には、地下大規模共同溝の整備を行い、電気ガス上下水道を整備、交通については高架専用道路によるバス路線を整備、その他分野医療などで支援します。経済成長の為の支援として教育機関、技術支援も含みます。全てが整えば企業の投資が増加し、経済成長が可能となります」
「企業の投資、つまり、金がこの国に勝手に集まる環境が作れるのか?」
「企業にとって良い投資環境を整えることができれば、可能となります」
「面白いな。法整備の詳細は事務官に任せるとしよう」
……………
会議は、王子が好意的な反応を示し、日本政府代表団は一定の成果を得ていたと思われた。
しかし、議員や官僚には王子の周囲の雰囲気に真逆の警戒感を覚えていた。
「王子の周囲の人間は、現国王派の貴族だったか?」
「おそらく。王子は会議出席の最高位の身分、表情も賛同の反応を見せていたが……」
「正直、真反対なのだろう」
「自衛隊の哨戒機が観測した竜の騎士、あれらの属する国がここではないらしいが……」
「内調が王国が護衛艦を利用した他国への威嚇の可能性を分析している」
「それだけじゃない。既に王国内の政治体制、身分制、都市と地域の力関係の調査の為に諜報も入っている」
……………
「アレフブラハム帝国の皆さま、あの船は我が王国の新たな協力国、ニホン国の軍艦でございます」
ちょうど今、ウェストラートの軍港事務所にはアレフブラハム帝国の査察官が立ち寄っていた。
「砲塔……だと!対空機関砲をも備えているのか!」
「木材を使っていない、完全な鋼鉄船か」
「外輪でもない。水面下回転翼推進方式(スクリュー推進)など」
「それ程優れた軍艦であったか?」
その場には国王が同席していた。
「目的の分からない超巨大艦、一門ではあるが列強並みの砲塔と対空機関砲を持つ大型艦、いずれも鋼鉄船」
「二隻の大型艦には甲板にかなりの余裕がある様に見える」
「列強並みの最先端技術で建造されたのだろうが、杜撰な設計で優位性を潰している」
「まるで、超長距離から高速連射が可能で、百発百中の艦砲を運用することを前提にした様な現実離れした設計の艦だと考える」
「つまり、たいして役に立たない艦だと言うことだ」
「そうか。一応あの者らが、我が王国の上空を飛んでいた騎と同じ国の人間なのだがな?」
国王は査察官らを焚き付ける。
「それは事実なのか?」
「ああ、あの者らがそう口にした。その事で謝罪までしてきたな」
「奴らは東に800キロの位置にある国なのだろう。列強の国ではないが、列強並みの艦を有する。どこかの列強が、最新の軍艦を供与したとしか考えられん」
「成る程、一門の砲塔も、余裕がある甲板も、性能を落とす設計を敢えて行い、極東の蛮国に供与したと考えられるな」
「ほう、そうなのか。であるなら、帝国はあの者らにいかが対応する?」
国王は会話の流れを制御している様だった。
「それは我々が考えることではない。速やかに報告するだけだ」
「本国が適切に対応するだろう」
「そうか」
後にこの査察が戦争の火種になる事は考え難く無かった。




