襲撃、変化
「うう……かなり痛いな」
「カズマ、何事だ」
すると護衛の憲兵が小銃を単発に切り替え、撃ち返す。
子どもは腕や肩、足に被弾し、既に意識はなかった。
「もういい、確保しろ!」
周囲は騒然としている。
式典に出席していた貴族やアラックの豪商は憲兵が持つ小銃に注目していた。
憲兵が持つ小銃は日本製の5.56mm小銃だった。
民間携帯電話ネットワーク、衛星通信、GPS、生体認証に対応し、射撃時にはその位置や射撃方位、角度をデジタルコンパスとジャイロセンサーによって記録し、送信する。不正使用の場合、遠隔操作によって機械式セーフティを掛けられる。
「何だそれは!」
「そんな威力のある武器が配備されているのか!」
「こんなモノがあれば我らの領地を攻撃するのも容易いではないか」
「中央の憲兵はこんなモノを持っているのか」
貴族らはその火器を持つ中央憲兵に対して恐怖を覚えた。
まもなく高速ターミナルに救急車が到着した。
「この子だ、一応息はある」
「同乗者は」
「いない。後で福祉事務所から連絡させる」
「分かりました」
救急車が去ると、今度は道路管理公社の清掃員がプラットフォームのタイルに付着した血痕の除去に取り掛かる。
その後、式典は中止が決まった。
ターミナル運用開始は予定通りの時間に行われた。
「撃たれたのか?」
アルドリウスが粟田を心配して尋ねた。
「痛かったが、大丈夫」
シャツを下ろし、防弾チョッキと、背中の弾痕を見せる。
「こんなモノが……」
「防弾チョッキを事前に着ていた」
「防弾、金属のプレートでも無さそうだが」
「特殊繊維で作られている」
「だが……なぜ事前に、予想していた?」
「ああ、AIが未登録住民の行動が活発化していると指摘していた。それに、まだ国境管理が不十分な地域から入国した人間が周辺でかなり確認されている」
「諜報でもしているのか?」
「城内にいれば分からないかも知れないが、街頭には監視カメラ、上空も定期的にドローンが監視している。AIはその情報を分析して、変化の傾向を調べられる」
監視ネットワーク、PA(パートナーシップ協定)締結国に提供されている、情報統合型包括的行政支援システム、cabimの情報プラットフォームに含まれる監視映像データの収集、管理を実行するサブシステム。管理ソフトに含まれるAIは監視カメラ映像に常時、個人照合を行い、追跡している。個人照合には顔認証だけでなく、服装、歩行や体微振動などから特定する挙動アルゴリズム解析に対応して追跡、さらに顔の輪郭、服装、歩行パターンなどを利用した、貧困による栄養失調や疾病などの状況把握する実証試験を行っている。
人口密集エリアや感染症高リスクエリアでは、一定割合の監視カメラに赤外線体温計測機能を搭載し、公衆衛生管理に活用されている。
「町には何千、何万もの人間が行き交う。国境管理と言ったが通過する人数も膨大だ。それを記憶して、分析して、組織的行動を明らかにする?最早諜報機関の仕事だ」
「このAIはPA締結国にも導入されている。カバー人口は一億を超える。仮想演算クラウドの補助で、毎日数百万単位の分析を実行している」
「もはや人間技ではないが、機械ができるのか?」
「その警告があって、着て来れた。それにアルドリウスがいたから、憲兵も同行して、周囲を警戒している」
「ああ……」
アルドリウスは多少憔悴していた。
「少し離れる。護衛を付けるから車で待機して下さい」
「どこに行く?」
「職員用更衣室だ。さっき撃たれてジャケットに穴が空いたから着替えてくる」
粟田はターミナル職員の案内で更衣室に向かう。
「着替えはあるのでお構いなく、ありがとう」
粟田は服を脱ぎ、鏡で背中を覗く。
「タチの悪い弾丸だ。尖っているな」
ニードルの様な先端の弾丸が、防弾チョッキの繊維の隙間を貫通していた。弾丸の大部分は食い止めていたが、若干の出血があった。
「チョッキを取れば抜けるか?」
チョッキを脇腹のベルトから外して、取り除くとさらにさらに血液が出てくる。
「結構出ているが多分また……うっ」
まもなく出血箇所の出血が止まった。
そして、血を拭うと傷痕が消えている。
「この世界に来てから、傷の治りが普通じゃないな」
スーツケースから着替えを取り出し、着替える。
「こんな体質、他人に言える訳がないか……」
次の目的地、資源公社の新たな支線と貨物駅。
石炭火力発電所に運搬する為に新設された。
「ここでも石炭を燃やすのか……」
アルドリウスは表情を歪めていた。
「石炭火力発電所だから当然」
「これから地方の澄んだ空気、空が汚れていくだろう。ああ……」
「なるほど、同情していたのか。アルドリウス、首都の城の空気はどうでしたか?」
「空気だと?いちいち覚えていない」
「この火力発電所は日本の技術で建設された施設です。もちろん、空気にも配慮されている」
石炭ガス化燃料電池複合発電、IGFCは石炭をガス化し、水素を生成、燃料電池によって発電する最新鋭石炭を利用した発電。石炭をガス化する際に有害ガスを発生させる物質をスラグとして除去し、以降は燃焼の過程がなく、発電後は純粋な二酸化炭素と水が環境中へ排出される。その為、大気を汚染しない。そして、大気中の二酸化炭素濃度に対する懸念が存在しない現状、有効だとされている。
「黒煙が出ない?」
「王城への帰りに、臨海部を見てみますか?製鉄も、その他の産業も、その様な状態ではありません」
日本企業との合弁会社が運営する製鉄所は、発電所から供給される水素ガスを利用した水素還元による製鉄技術を利用しており、有害ガスは発生しない。
世界各国が石炭燃焼による深刻な大気汚染、水質汚染に直面し、多くの健康被害が出ていたが、科学的な因果関係が十分に解明されておらず、産み出される莫大な富と軍事力の前には政治も人もなす術がなかった。
日本は二酸化炭素を分離し、地層貯留する石炭利用を続けていた為、地球、ヨーロッパ先進国が放棄した石炭利用技術を、米国、中国と共に維持していた。
日本政府は世界的な調査を経て、公害に対するフラストレーションが相当であり、生産活動に伴う環境汚染が日本への悪い印象に繋がる、と調査、予測した。その報告書により、現地の理解を得られる外国での生産活動、持続可能性に配慮した生産技術を積極的に活用する政策を行ってきた。
今では環境汚染が劇的に改善した、アラック王国、シャハール民主共和国、初めて石炭利用を進めるその他PA(パートナーシップ協定)締結国の事例に関心を集め、視察訪問が相次いでいた。




