質素と衝撃
ヘンゼリクセン 高速バスターミナル
1番レーン
「これが式典会場なのか?」
運用開始記念の横断幕、均質なLED照明、折り畳みの会議テーブルなどかなり質素な空間。
アルドリウスがその光景に驚く。
「何と貧相な、せいぜい看板と赤い絨毯しかないではないか」
「ええ、運用開始記念式典ですから」
「これほど大規模な構造物を建造しておきながら、その式がこれだけなのか、と言っている」
「それは、協定設置の機関、協定開発計画の審査を経て、不必要な支出は控える必要があるという勧告があったからだ」
パートナシップ協定締結国開発計画、締結国が40ヵ国以上に増加し、日本の有する能力を上回る開発支援協力の要請があった。その為、協定会議に開発途上の国々がそれぞれの開発目標を達成できるように支援する為の機関が設置された。
各国は協定開発計画の支援を受けて開発目標や詳細な開発計画を策定、パッケージ化された包括支援群を地域別に優先順位を振り分ける。
僻地では食料の自給に焦点を当てた里山方式、都会では公平な教育機会、十分な雇用機会、水道・電気・医療・行政・交通など有機的かつ一体的な公共インフラの提供。
全ての包括支援群は貧困からの脱却を目標に設定されている。
協定開発計画は各国から提出された開発計画書を受領すると、旧ADBから移行した日本国国際開発銀行、International Development Bank of Japan、IDBJが審査を行い、純粋な必要性、費用対効果、費用の適正化の主な過程を経て、支援国との折衝の後、融資認可、計画が始まる。
「日本の資金にも限度がある。無秩序な支出は避けるべきだ。それに今回は日本政府の関与もあって、臨海工業地域への人材、物質供給の為の主要幹線として整備されている。普通なら建設すら認められない」
開発援助には当然、日本が必要とする資源、エネルギー・食糧の確保やその輸送に必要な海上交通路の整備、安全維持を目的とした開発計画も含まれている。
アラック王国は非常に高い石炭埋蔵量を誇り、各種鉱産資源、レアメタルなどを日本に輸出しており、まだ採掘されていない有望な候補地が非常に多く分布している。その上、温帯に位置する大陸の為、広大かつ肥沃な土壌に加え、日本に比較的近い気候条件により、莫大な量が生産され、日本への輸出されている。その上、日本へ輸出の際に掛かる、農産品輸出関税分をアラックの農業法人へ戻し税として還付される。農業法人は自動化された金融システムにより、生産者に収入として上乗せされている。つまり、アラック産の農業品は日本産を守る為に品目ごとに関税が課される。日本の消費者は国産品と同等の金額でアラック産の農産品を購入し、金額の関税分はアラックへ戻されるという仕組みになっていた。
「普通なら?」
「今回はアラック王国の重要性、資源・食料輸送網整備、臨海工業地域の日本企業の工場への人材や物質供給の円滑化を挙げている。つまり、日本側の都合と、国王の要望が噛み合ったという事だ」
「ほう。それだけの為に何百キロもの陸の橋、高架橋だったか?この巨大な構造物を建造するのか」
「俺自身は計画決定のプロセスに関わっていないからな。目先の貧困層への支援で手一杯だ」
「そうか。これだけ計画の事を把握しているにも関わらず、関与していないか。興味深い」
アルドリウスと粟田が立ち話をしている際、貴族や企業代表がよく挨拶に来た。
そんな中、粟田は子どもを見かけた。
ボロ切れのような薄い服に、薄汚れた肌、睨みながらこちらを見ている。
「あれは……?」
すると子どもはアルドリウスに何かを向ける。
「嘘だろ!アルドリウス!伏せろ!」
「おい、何す」
粟田がアルドリウスに覆いかぶさると、パンという乾いた音がした。
「おい、カズマ」
音がする度に鈍く身体を震わせた。




