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式典への道のり

王城正面エントランス


正面ロータリーを一周、何台もの送迎車、警備車両が囲んでいた。護衛の憲兵隊らが忙しなく、誘導し、列をつくり、周囲を警戒していた。


「これが日本の蒸気車なのか?」


車寄せに停車する、低速モビリティにアルドリウスが釘付けだった。


「蒸気車?これは燃料電池低速モビリティです」


低速モビリティ、アラック王国では馬車中心の道路事情、交通ルールの周知などに課題があり、一般道路では高速走行のできる車両を進入させず、低速モビリティのみの走行とする事で、人身事故を防止していた。最高速度は時速二十キロメートル。


「低速?モビリティ?」

「城下は人と馬車で混み合っているので、これで、ナイドラート高速駅に向かいます」


七年間城で軟禁されていたアルドリウスは、ここ数年の変化に驚き、その目に光が戻っていた。


車に乗り込むとアルドリウスはまた反応する。


「何だ?涼しいな、前にいるお前が魔法で冷やしているのか?」

「いいえ、アルドリウス様」


運転席に座る職員が答えた。


「は?一般定型術式:冷風だろう。氷はどこだ?」


アルドリウスは車内を見回り、魔法の痕跡を探す。


「アルドリウス、これは機械の風です。魔法ではない」

「何?カラクリが冷風の魔法を使えるのか?信じられん」

「違う。コンプレッサーという機械で冷却した空気を車内に送っています」


粟田はスマートフォンを取り出し、エアコンの仕組みと検索、教育動画を再生した。


「何だ?それは……」

「スマートフォンです。これを見て下さい」


《まずは、冷房の仕組みから説明していきましょう》

《エアコンの本体内部には……》


「信じられん」


スマートフォンの映像に驚きながら、動画に見入っていた。


「着きました」



ハーマン・高速バスターミナル


「この大きさの、橋がずっと繋がっているのか?」

「陸橋?高架橋というのかな?まあ、ずっとではないが、繋がっています」


アルドリウスの待機していた自動車に興味を持つ様子を横目に、スマートフォンからドアロックを解除し、目的地を設定する。


「御者は乗らないのか?」

「この道路では必要ありません」


《おはようございます。今日は7月16日月曜日です。目的地が設定されました》

《CTCとのスケジュールを調整中、車線進入信号を受信しました》

《発進します。ご注意下さい》


「おお、動いた……」


アルドリウスが窓の外を凝視する。


《時速120km高速走行に移行します。ご注意下さい》


「速い、それに周りの車も御者が乗っていないな」


《高速走行車線への車線進入信号を受信しました。時速300km高速走行に移行します。ご注意下さい》


「おお、まだ加速するのか?」

「アルドリウス、あまり外の景色を追うと、気分が悪くなる」


粟田は車酔いを忠告する。


「わかった。だがこれほどの速さを感じたのは初めてだ」

「日本にも時速300キロの高速なんてない」

「そうなのか。こんなものよく作れたものだ」

「大陸国の広い国土、国王の要望、車両のメンテナンスなどを総合的に考えてらしい」


当初、現国王オズメットが時速300kmの新幹線導入を強く希望したが、建設費、運用コスト以上に整備維持の為の人材が決定的に不足していた。そして、線路上で一編成でも走行不能になれば輸送能力が格段に低下してしまうデメリットを大きく見た。


「かなり大きい馬車もいるのだな」

「連節された高速バスですね。確かに初めて見たな」


アラックでは時速300kmの高速走行可能な連節バスが運用されている。車両前方は新幹線の様な流線型で、空気抵抗を減少させる設計が取り入れられている。最大五連節まで可能な車両も導入されている。


「日本にはないのか?」

「ありません。人口減少の続く日本で、これ以上輸送力増強に掛ける資金はないと思う。むしろ、社会インフラの削減が急務だ」

「この王国ではこの五年、人口が著しく増加している。元々肥沃な大地で占められた大陸国なのだ。おおよそ三千万だったか?増加率は年率3.0%だったかな」


日本がアラックに関与して五年、急速な栄養事情の改善、医療、行政サービスを含めた社会インフラの整備により、人口が430万人以上増加した。


「豊かな日本で人口減少など信じられんな。ここでは庶民の子どもなど、何もせずとも勝手に生まれ、増えていくというのに」


アラックでは多くの子どもは幼い内に捨てられて、労働力として過酷な児童労働を強いられることや、盗賊団に拾われ強盗を働くことなど、非常に劣悪な環境に置かれていた。


その為、子どもは蔑視の対象であり、餓えた鬼、餓鬼と呼ばれていた。


日本の支援では、子どもの居場所として親の養育を前提としない養育施設の設置、寮付き教育職業訓練施設の整備、就労先紹介等を百万人単位に対して積極的に行ってきた。その上、盗賊団、非合法活動組織の摘発にも日本の警察特殊部隊、自衛隊を投入し、多くの子どもが犠牲になったが、周辺地域の治安改善効果が著しく現れた。


「責任とか、期待とか、色々あるから」

「責任?期待?まるで貴族社会の様な考え方だな」

「大して変わらないと思う」


《まもなく、目的地、大陸南北縦貫道、ヘンゼリクセン 高速バスターミナルに到着します》

《この先は規制区間です。今日の15:00に解除される予定です》


粟田は端末を操作する。


《招待IDを認証、規制区間への進入信号を受信、7番レーンに停車します》


「着きました」

「早かったな。では、式典に向かおうか」

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