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初接触時の出来事

日本の位置を訂正しました。


アラック王国から東に変更しました。

配管が張り巡らされた天井、金属の壁。

それらは海上、船内にいることを感じさせる数少ない感覚情報だった。

現代の艦船はほぼ揺れを感じることはなく、空調も効いている。


今、この艦は、アラック王国の港湾都市、ウェストラートに向かっている。

数日前の先遣隊が会議の約束を取り付けていたのだった。


(言葉を交えられれば良いが……)


1週間前の転移災害から、孤立無援の日本にとって外部への接触は急務だった。

海外からの輸入食料に依存し、輸入資源に依存していたため、海外からの供給が断たれた今、深刻な危機に直面している。


その災害から数日後、初の接触がアラック王国だった。


……………


この数日前、アラック王国ウェストラート沖、西の海上では30隻近くの海賊船団が都市への侵攻を試みていた。黒地に白の髑髏の旗を掲げ、乗員は血気盛んに咆哮していた。



「奴ら、商会らの倉庫が狙いか!」


ウェストラートには、島々と半島に囲まれた広大な湾に、大規模な港があった。北域と西域を繋ぐ貿易海路の中間に位置し、様々な商会が現地商館を置き、品物を一時保管する倉庫街がある。特に北域からの輸入品は主に、金、銀、ダイヤモンド原石などの貴金属や宝石の原石であり、倉庫街というものの、かなりの高さの塀に囲まれ、警備の待機所が併設された門構えで、警備の傭兵が巡回、待機していた。


この世界の水平線は、一般人の視点から約40キロが見通すことができる。


「海軍に警備支援を要請しろ!」


沿岸警備隊のウェストラート沿岸地域統括長ヒューゴは単眼の望遠鏡を覗き、部下に命令を下す。


「あれはこの辺りの海賊船じゃない!戦列艦の海賊船など、冗談ではない!」


現在、列強諸国は戦列艦から装甲艦への移行期だった。しかし、世界の大部分は軍用の大型帆船の建造すら困難であり、木造船と弓のセットが一般的だった。その彼らの眼前に戦列艦という、強大な力を有する海賊船への対処は絶望的だった。



ウェストラート沖、西に20キロ程の海上には既に海賊船団が到達していた。


「おお、対応が早いな!」


海賊船団の船団長トルードは望遠鏡を片手に、ウェストラートの湾を眺める。国境警備隊の警備船が速やかに配置に付く様子に感心していた。


「だが、海軍払い下げの戦列艦には及ばないだろうがな」


海賊船団には警備船が十数隻、接近していた。


「チッ、命知らずの海兵が!」

「「お前ら!砲を詰めろ!盛大に玉を打ち込んでやれ!」」


海賊船団が回頭し、船体側面を警備船に向ける。すぐに戦列艦の木製窓が一斉に開かれた。ものすごい数の窓からは砲が見えていた。


「「打て!!」」


ドンッ、ドンッと砲が火を噴き、砲弾が放たれる。まもなく、警備船にいくつか命中し、沈没していく。後に続き命中し、沈んでいった。遂には海賊船団の周囲は木片が漂うだけの風景に変わる。接近した十数隻が全て沈んでいた。



「おのれ!海賊ども!あんな船で来やがって!」


ヒューゴは苦虫を噛み潰したように表情を歪める。


「海軍は何をやっている!まだ来ないのか!」


すると望遠鏡の視界の端、水平線から海軍の船が覗いた。


「おお援軍が……あ“!あれは、何なのだ!」


海軍の船と共に、超大型艦が同行する様子を捉えた。白色の、帆のない、島の様な船。すると突然、白色の超大型艦から白煙が上がった。


「な……」


次の瞬間、海賊船が一隻、爆発した。


「5キロ以上の距離を、初弾命中だと!」


戦列艦の射程は1キロ以上だが、白色の超大型艦はそれを遥かに凌駕していた。



「戦列艦が大破しただと!」


着弾した場所から方角を延長線上に辿ると、白色の大型艦が見えた。


「極東の蛮族が、あんな船などありえん!砲も一門しか……ああ、蛮族のことだ、見掛け倒しの大きさと数に余裕がないから砲が一門なのか」


トルードは列強の最新鋭の装甲艦への流れを見ている。その常識と、所詮は野蛮人という先入観が正常な判断を鈍らせていた。


「「お前ら!針路を西へ向けろ!」」

「「ああ、やはり蛮族だ!たった一門の砲で何ができる!」」


トルードはとりあえず船員を安心させつつ、士気を煽った。


「「この距離で当たる訳ないが、砲の爆音でビビらせてやれ!」」

「「おお!」」


戦列艦からは統率のない、砲が放たれる。その際、爆音が周囲の空気を震わせた。



「奴らは一体、何をやっている?」


戦列艦の威嚇はヒューゴにとって意味不明な発砲だった。


「おお、距離が離れていく!このまま立ち去ってくれれば良いが、まさか巨船に向かっているのか?」


白の大型艦の周囲には海軍の船が同行しており、接触してしまうことを案じていた。海軍の船と言えど、木造船に弓やバリスタ、数隻は投石機を装備しているが、戦列艦相手には敵わないと考えられた。


だが、そんな不安は一瞬で消失した。突然、海賊の戦列艦が、再び大破した。


「また、巨船の砲撃か。射程と言い、威力と言い、命中率と言い、恐ろしいな。またか!」


超大型艦は連続して戦列艦を沈めていく。早く、一隻一隻確実に命中していく。


「これ程連続で打てるものなのか?」


既に20隻以上が沈み、最早十数隻を残していたが砲撃は止むことなく続いた。


「大型船とは言え、たった1隻で、一門の砲でこれ程とは……」



まもなく湾内には静寂が戻った。

海賊船団は壊滅し、海軍の船は浮かぶ海賊船の船員を拘束していった。


「あの超大型船は、ニホン国海上保安庁の巡視船、我が国の国境警備隊の警備船にあたり、目的は我がアラック王国への国交開設交渉の為、寄港した模様です」


ヒューゴは海軍から報告を受けていた。


「あれが!警備船なのか!?」

「そのように報告されています。艦載砲に関しては、弾薬を通常より高威力なものに変更している様ですが、砲に関しては特に変更はないそうです」

「そう彼らから説明を受けたのか?」

「その様です」

「ニホン、聞いたことがないな。だが、あの船は凄まじい」

「我がアラック王国の東、約800キロに位置する島国との事です」

「800キロを航海して来たのか!」

「付け加えて、数日前の我が国上空を飛行した事について、詫びるとの事です」

「!!」


ヒューゴは大きく息を吸い込み、大きな溜息を吐く。


「あとは、国王と宰相に任せよう」


眉をひそめ、こめかみを押さえていた。

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