不意の報せ
対ゲルニカ戦、連合国外相会議
「我が帝国の外交ルートより、ニホン国がこの戦争に参加するとの情報があります。ゲルニカ連邦を援護すると」
アレフブラハム帝国の外相が報告する。
「何だと!ニホンが参戦!?」
「極東の島国が、遥々、この偉大なる中央大陸の聖戦に、土足で踏み入るのか」「蛮族が!この聖なる大地を汚すつもりなら、存在ごと消してや……」
中央大陸の他の外相らは息巻く。
歴史上、あらゆる海外からの侵略を退けてきた中央大陸の国々は、誇り高い。
近代では、中央大陸の国々が世界を支配する様に、植民地拡大を急速に進めていた。
「アレフブラハム帝国は、今後対ゲルニカ戦において関与を段階的に削減し、最終的に参加を見合わせることを報告します」
「我がクラウゼンも、アレフ帝国の忠告を素直に受容し、完全撤収の為、早期に段階的撤退を開始します」
唐突に、二カ国の戦線離脱が告げられた。
「な……」
「世界の列強である誇りを忘れたのか?」
「極東の蛮国ごときに、長期間、大量の金を消費した戦争を止めるだと?」
「我々はまだ、何も得ていないのだぞ」
既に四年に渡る戦争で、中央大陸各国は疲弊していた。
物資や武器は植民地からの調達が大部分を占め、中央大陸内では徴兵により労働人口が減少し、生産力の低下、後方の兵器工廠も生産力を発揮出来ていなかった。
そんな状況での希望は、ゲルニカ連邦からの賠償だけだった。
「我々はあなた方の戦争を止めたい訳ではありません」
アレフブラハム帝国外相は冷たく返す。
「あなた方……だと?ははっ、最早我関せずか?」
「今まで共闘してきたではないですか!なぜ無関係な戦争の様な言を」
戦線維持には連合国の協力が不可欠だった。
だが、二カ国の離脱が宣言され、他の外相らは感情的になっていた。
「決定事項なのです。既に、撤収に関する議会手続きは完了しました。今は、一刻も早く、責任ある参戦国から無関係な第三国に移行することが最優先事項です」
「ミサイルか?」
小声で呟く。
「何ですか?」
アレフブラハム帝国外相は聞き取れない。
「だから、ニホンのミサイルがそれ程恐怖なのか!?」
とても大きく怒鳴る。
「ああ、成る程。公開できる情報からではありますが、我がアレフブラハムは、ニホンの現在ではなく、未来について非常に危惧しています」
「未来?っははは、何を言うかと思えば戯言を」
「正確に言うと、ニホンが持つ未来の選択肢についてです。判断の根拠は、技術水準、製造能力、外交における姿勢、過去に経験した歴史などから推測しました」
「未来の選択肢?今保有するミサイルの数も高が知れている。今叩けば……」
「ニホンが国民の同意を得て、単独首位の軍事大国への、いや覇権国家への選択肢を選んでしまうと考えています。もしそうなれば二位以下に倍ではすまない絶対的な差を、我々は目にすることになるだろうと」
「そこまでなのですか?」
「我が帝国の情報部は、その様に分析しています」
「馬鹿らしい。極東の蛮族を過大に見過ぎだ」
「アレフブラハム帝国も、五年前はそうでした。単純な軍事規模で比較し、あのミサイルを確認した後でさえ、五年を目処に再攻略を目指していました。ですが、その間の諜報によって方針転換を余儀なくされました」
「何があった?」
「公開されている議事の範囲ではこの辺りが限界です。これ以上は、我が帝国の機密保持の観点から申し上げられません」




