ゲルニカ連邦 Ⅰ
五年後、日本が主導して発足した共同体設立条約、後にパートナシップ協定と改められた協定締結国は四十ヶ国以上に成長した。
地域分布は極東、東方大陸、中央大陸にまで及ぶ。
この協定は、自由、民主主義、平等を掲げ、締結国には厳しい履行義務が課せられるモノだった。
当初日本政府は先行きが見通せない、として条件緩和を検討していた。
だが、アラック王国、シャハール民主共和国の急速な発展で、状況は一変した。
日本政府は締結国間の生産量調整、輸出、現地生産などを慎重に分配調整する試みが功を奏した。
一方で、締結国のほとんどの生産能力が、日本企業の傘下に入ることになったが、貧困層の激減と税収増など、急速な経済成長により批判はほとんど出なかった。
粟田は今、中央大陸にあるゲルニカ連邦に向かっていた。
ゲルニカ連邦は新興覇権国家であり、広大な植民地を抱えている。
そのゲルニカ連邦は今、中央大陸で周囲の国家と戦争状態にあった。
ゲルニカ連邦の南東に位置する同盟国フランツを防衛する為、参戦した。
まもなくゲルニカ連邦、首都軍用空港に着陸した。
空は黒い雲が覆っていた。
「ようこそ、ゲルニカ連邦へ。
私はハンス・デッカー少佐、連邦軍参謀本部に所属する将校です。
カズマ・ソウダ、アラック王国相談役、シャハール民主共和国議会付き特別顧問、ニホン国が主導するパートナーシップ協定会議顧問。
あなたのご活躍はかねがね、耳にしております。この国はあなたを歓迎します」
「ありがとうございます」
粟田はハンスの挨拶に圧倒されていた。
ゲルニカ連邦は複数の国が同盟で繋がり、連邦を形成している。それぞれには、長い歴史と文化があり、視野に入るあらゆる建物から歴史を感じている。
粟田は日本から空輸された自動車で移動していた。
連邦参謀本部、そこは西洋建築の雰囲気を持つ巨大な石段、モニュメント、石柱。そして、まるで神殿の様に建物の中へ進む。
「今日は天気が悪いですね」
粟田は話を始める。
「ええ、火薬兵器が多く占める為、その硝煙がここまで流れてくるのです」
「そうですか」
粟田は言葉に詰まる。
「あなたが搭乗されていた巨大な航空機、とても素晴らしかった。ニホンはあの様な飛行機が作れるのですね」
ハンスは少し興奮している様だった。
「あの機体は、転移前の大国にある航空機の民間企業が製造した機体です」
「民間企業ですか。それは凄い」
「製造には日本も、主翼や動力部など参画していますが、単独ではまだ難しいですね。特に、安全性の認証を取得する事がとても難しいのです」
「航空機に、安全性認証ですか。初めて聞きました」
「ニホンも後、五、六年後には国産試験機が飛行する予定です。開発には十年以上を要しますから」
旅客機開発は通常、十年以上の期間を要する。
転移災害後、日本は米・欧航空機メーカーの日本法人を買収し、旧財閥系重工業企業が開発を進めていた。
「かなり長期間ですね」
「国産の小型航空機は、既に利用されています。乗客九十席程度ですが……」
転移前、日本初の国産ジェット機は既に就航していた。
「それでも大勢、搭乗できるのですね」
「そうですね。開発に相当苦労したと、報道していました」
「ニホンの航空機、私も完成を楽しみにしています。では、本題に移りましょうか?」
粟田が今回、ゲルニカ連邦を訪れた目的は、軍事支援についてだった。
日本は依然として、他国への軍事介入には消極的だが、ゲルニカ連邦に対して、海外領土防衛、必要物資の供給などを実施していた。
しかし、パートナーシップ協定の成熟と共に、共同安全保障の提案が各国から挙がり、日本も方針転換の検討を進めていた。
「日本政府としては、ゲルニカ連邦への資源供給は継続して実施する事は確認しており、今後も変更はありません」
「ありがとうございます」
「そして、軍事支援に関しては、交戦国の海路、空路を遮断する、限定的な支援について、検討を進めています」
「装備移転に関してはどうでしょう?」
「日本政府は、この世界の技術水準が未だに把握できておらず、その様な状況で防衛装備移転を実施する事は困難、という見解を示しています」
「限定的な支援、についてですが、詳細を教えて下さい」
「ゲルニカ連邦の港、空港を一時的に日本と協定を結ぶ同盟国に貸与して頂き、海上戦闘艦、戦闘機などを配置し、指定域内を封鎖する予定です」
「それは心強いです」
「日本政府は今回、あくまでも自由、民主主義、平等の価値観を共有する、積極的な行動を期待して、支援しています。パートナーシップ協定では、ゲルニカ連邦はまだ、オブザーバー参加国であり、今後の実施を注視しています」
「重々、承知しています。それではまた、夕食後にその他の議題について、話しましょう」




