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転移災害後の日本 〜生存への試み〜  作者: かっちゃん
東方大陸、ウォンヤン半島編
21/35

[閑話]あの日の夜

東方大陸ウォンヤン半島北部、山岳部。

国境から十五キロ地点。


辺りはすっかり暗闇に包まれていた。


「ギギ!傷が……」


巨龍の側に寄り添う少年。

その龍は飛膜が裂け、全身を覆う鱗も剥がれていた。


「グォン、怪我はないか?」

「喋っちゃダメだ!傷が開く!」


首元の鱗が剥がれ、裂け目から大量に血が流れる。

グォンは小さな両手をあまりに大きな傷口に添え、手から光を放つ。


「グォン、魔力をこれ以上消費するな!」

「でも、こんなにたくさん……」

「今は動けないが、時間さえ経てば治る。グォンの防壁で奴らのブレスから守ってくれたか……ゴボッ」

「あっ!」


巨龍は大量に血を吐き出した。


「魔力は、助けてが来た……時の合図につか…え……」

「もうやめてくれ、話すな!」

「わかっ……」


巨龍は動きを止めた。


「ギギ!一人にするな!もう……これでも!治れ!」


グォンは精一杯の魔力を込め、治癒魔法を放ったが、枯渇ショックで意識を失った。



同時期、東ウォンヤン港

ヘリコプター搭載護衛艦『いせ』艦内


「艦長!本部より出動命令です」

「場所は?」

「半島北部、山岳部です」

「周辺海域へ急ぐ、副長!」

「了解しました。主機、始動!両舷前進最微速!方位……」

「湾内の船を退避させよう。これでは湾を出るのに時間がかかり過ぎる」

「了解!本部を経由し、港湾管理事務所に要請します」


宮廷内、応接間


『粟田さん、これから着地した龍の捜索を開始します』

「はい」

『そこで、湾内の一般船舶、退避を要請します。『いせ』が湾を出ようと試みていますが、船舶の数が多く、迅速に現場へ向かえません』

「分かりました、王朝担当者に要請してみます」


スピーカーにしていた通話を聴いたシャハール国王は、側近に伝える。


「トンウォンに急ぎ伝えろ!港を空けろと」

「分かりました」


『いせ』艦内


「艦長、灯台が点灯、回転しています!」

「一応伝わったみたいだ」

「金属音、鐘でしょうか?」

「艦長!船舶が岸へ退避して行きます!進路、空きました!」

「副長」

「進路そのまま、両舷前進原速!」


『いせ』は速度を上げ、湾を出た。


「予想時刻は分かるか?」

「現在の速度を維持した場合、20:02頃到達する予定です」

「副長、ヘリの準備をしておこうか?」

「準備?即時待機、でありますか?」

「いやいや、哨戒装備を可能な範囲で減らして、航続距離を伸ばそうと」

「装備を除去、でありますか?」

「魚雷とか山岳での捜索に必要ないだろう。少なくとも、対空装備と赤外線カメラで十分だと思う。ソナー装備はそう簡単に外せないが……」

「了解しました」

「わたしが指揮を引き継ぐ。副長」



半島北部、山岳部


「うっ……あれ?」


グォンは魔力性枯渇ショックにより、しばらく気を失っていた。


「鳴き声?」


遠くとは言えない距離から、遠吠えが聞こえる。


すると、木々の合間から無数の光の点が見えた。

そして、ゆっくりグォンらを囲む様に姿を現す。


「狼、こんな数……」


グォンの周囲には狼が数十匹いた。


「火の鞭!」


グォンは魔力を込め、『炎の鞭』を発現させた。

手から伸びる鞭は、暗闇を赤く照らす。


「うわ……」


遂に来た。四方向から同時に四匹が駆けてくる。


「もう一本!」


『炎の鞭』を両手に、狼の四肢に巻き付き、捉える。


「焼いちゃえ!」


『炎の鞭』は一気に火力を上げ、狼の体毛に引火。


「より細く、より丈夫に」


すると、鞭が巻き付いていた四肢が切断された。

悲鳴を上げる狼が地面に転げ回る。


「火のつる、伸びろ!」



『いせ』艦内


「まもなく当該水域です」

「哨戒ヘリは準備でき次第発艦。『あしがら』のレーダー情報が途切れた座標へ急行せよ」


飛行甲板上では、同時にヘリ三機の回転翼が既に高速で回転している。

そして、同時に発艦する。


「既に、『あしがら』から先行して一機、捜索活動を実施している」

『はい』

「山の起伏に注意し、捜索せよ」

『了解』



半島北部、山岳部


「火のつる、伸びろ!」


『ファイア・エンタングル』を発動した。

グォンが握っていた鞭が、草の蔦の様に狼の足に巻き付く。


「燃えろ!」


狼の体毛に引火し、数匹が同時に火ダルマになった。


「はあ、はあ、もう…無理……」


グォンは『炎の鞭』を接近する狼に叩き付け、威嚇する。

既に魔力が底を尽きかけていた。


「なんの音?」


バラバラと、得体の知れない音が聞こえた。


半島北部、山岳部上空


乗組員が赤外線カメラのモニターに白く映るモノを発見する。


「眩しい?あの白いのは……何かが燃えている?」

「火?人がいるのか?接近してくれ!」


ヘリは機体を傾ける様に急行する。


「子どもがいた!子どもを発見した……だが、狼に囲まれている!」

「ドアを開放、射撃準備!」

「了解」


ヘリは高度を下げ、子どものいる方向へ接近する。


「子どもに当てるな!撃て!」


地上


「なにあれ……」


轟音を立てながら、狼が血を吹き、倒れていく。

バラバラと空中の何かから轟音と同時に光が一瞬見えた。


「なにも見え……!」


空中の何かが、突然光を放つ。


「(私たち、君、助ける、他、子たち、生きてる、シャハール王朝から来た)」


空中から、人が滑る様に降りてきた。


「(耳、付ける、こう、する)」


少年はヘッドホンを付けた。


『聞こえるかな?自分はアラック王国相談役、粟田と言う』

「アラック?」

『シャハールからの要請で、君を捜索してたんだ』

「みんな!生きてるの?」

『全員、無事だった。魔法で軟降下できたと聞いている』

「よかった……」

『君はこれから、ヘリって言う空を飛ぶ乗り物と、それから船に乗って、シャハールまで来てもらうつもりだけど良い?』

「ギギは?」

『朝になったら、連れて帰られると思う』

「ホントに?」

『夜の内に、首都から龍に効く回復薬?……があるそうだけど、それを運んでくると聞いている。大丈夫?』

「大丈夫。分かった!」


『では、後お願いします』

「こちらこそ、ありがとうございます!それでは通信を切ります」

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