幸せな結末
王朝とソウ帝国の国境から東に二十キロの海上
『あしがら』艦内
「海上に漂流物を視認!多数確認できます!」
艦橋から報告が上がった。
「特定できるか?」
「黒い、布状の物体です。ん?」
「どうした?」
「何か乗っています。あれは……人?しかも子どもです!」
「救助しよう」
艦長が救助作業を命令する。
「了解。進路そのまま、全作業艇、着水準備!」
「本部にも伝えておこう」
「了解」
宮廷内、応接間
『先程、国境付近の海上にて、子どもら数十名近くを発見しました。生存確認はまだできていません』
「そうですか……。人数が分かり次第報告お願いします」
「相談役殿、龍の生存確認も頼めるか?」
シャハール国王が懇願する。
「あの、子どもら乗っていた龍についても、生存確認できますか?」
『龍!?えっと、あの空想の?』
「はい、この世界では実在します。元人間の様な種族なので、意思疎通もできると思います」
「あやつら、着水訓練されているはずだ。おそらく浮くくらいできるだろう」
シャハール国王
「えっ、そうなんですか?」
『どうしました?』
「龍たちは着水訓練されてる様で、浮くこともできるそうです」
『現場ではどうすれば……』
「生きている可能性があるので……」
「船で引けないか?」
「船で牽引できないか、と言っています」
『そ…っそうですか。分かり…ました。現場に伝えてみます』
東方大陸ウォンヤン半島北部、トンランニム山脈
「シャハールの領内に入ったみたいだ」
「そうか。そろそろあの平地に降りようか」
「どうした?」
「少し疲れた。もう休みたい」
『あしがら』艦内
「艦長、全員の生存確認が終了しました。全員無事です」
「ああ」
「ドラゴンの係留作業を実施中です」
「(先に行ったグォンは、現長老の末裔は辿り着いたか?)」
水上を走る様に牽引される巨龍が尋ねる。
「何を言っているか、分からない……」
「(ねえ、おじさん!グォン、先に行った男の子知らない?)」
「艦長、あのドラゴンと少女が何か伝えたい様なのですが、本部へ言語支援を要請する許可をお願いします」
「分かった」
宮廷内、応接間
三人はが既に、子ども達と巨龍の全員が無事であると聞いていた。
『では、艦内に繋げます』
粟田はスマホの通話をスピーカーに切り替えた。
『(だからね、グォンはどこ?先に行った子、どこ?)』
スピーカーからは少女の声が聞こえる。
「先に行った子の居場所を尋ねているようです」
『(グォンはね、長老のマツエイなんだよ?だからね、大切なの)』
「乗っていた子どもは、グォンという名前で現長老の末裔だと」
『分かりました。ありがとうございます』
「はい」
『ではこの子に、北部の山に降りた事が分かっている、とお願いします』
「(国境の近く、北の山に降りた事は分かっています。だから……)」
『おじさん、この黒いのから声が聞こえるよ!』
「(自分はそこのおじさんに頼まれて、君と話してる。そのおじさんは君の言葉が分からないんだ。先に行った子、グォン君は北の山に降りた事は分かってるってみんなに伝えてくれる?)」
「(分かった!ありがと、黒の箱さん)」
「……」
「黒の箱さん、か……」
「まあ良いではないか?この娘、しっかりしておった」
「相談役殿、いずれ誤解を解く機会もある」
「ははは……」
棒読みで、ははは、と粟田は声を出した。
その後、山間部で龍の里現長老の末裔、グォンと消耗した巨龍を、『いせ』から発艦したヘリコプター部隊が発見。レーダー消失座標の付近で確認された為、発見は容易だった。
負傷した全ての巨龍は、王都に集約され、治療とは程遠い、食事介助しか出来なかったが、驚異的な治癒力によって数ヶ月で回復した。




