疎開と葛藤
東方大陸、ソウ帝国上空
「アラックはアレフを追い返したらしい」
「長老のご指示だ。若い衆を疎開させろと」
雲の上を巨龍の群れが飛んでいる。そして、龍の背には五、六人程の人影が見えた。
「アレフで調べたが、ニホンという遥か東の新興国家が中心的な役割を果たしていると聞いた。ニホンは既に、東方大陸の半島に進出している」
「グォンは頭が良いな。里の外の事、よく知ってる」
「それは、現長老の遠い孫だから」
グォンは周囲の反応に照れる。
「末裔、って言うらしい。長老はもう千年以上も生きてるから……」
「立派な大人になるのにまだ八十年以上……」
「そうでもない。細かい作業が全く出来なくなるし、人間の街にも行けない」
彼らを背に乗せた立派な龍は不便さを訴える。
「あれ、何?」
グォンが遠くに何かを見た。
「皆、気を付けろ!アレフのワイバーン部隊だ!」
巨龍の群れに緊張が走る。
東方大陸ウォンヤン半島、シャハール王朝
ヘリコプター搭載護衛艦『いせ』
「艦長、レーダーに反応があります!」
「詳細を」
「方位2-7-2、距離:百、数:二百、一体……」
「防衛省に報告しておく。追跡を継続」
同地
宮廷、応接間
「ニホンの艦艇が、西に二百キロの地点で、数百もの飛行物を確認した」
「どういう事だ?」
「我も知らぬ……」
突然、ドアが叩かれる。
「どうした?」
「火急の報告です!」
「入れ」
文官がシャハール王に耳打ちする。
「疎開だと?なぜこんなに遅くに!」
「申し訳ありません。宮廷内の混乱で、事務作業が遅れてしまい……」
「悪い。そうだった」
「一体、何の事だ?」
オズはシャハール王に尋ねる。
「数年前アレフブラハム帝国が龍の里へ侵攻しているのだが、最近、龍人の疎開に協力を求めて来ていたのだ。だが、国内の諸々の問題で我々も余裕が無かった」
「今日、来ると……」
「報告してくる!」
「ああ」
『いせ』艦内
「編隊、崩れました!これは……」
「どうした?」
「背後を取りに……っていう事は、戦闘が発生している可能性があります!」
「分かった。だが、我々には今のところ何もできない!本国に報告を頼む」
「了解しました!」
宮廷、応接間
「えっ!分かりました。そのように伝えます」
粟田は通話を切った。
「どうした?」
「戦闘が始まったって!」
「戦闘だと!ニホンは助けてくれるのか?」
「それが……」
粟田は苦渋を舐めた表情を見せる
「合意の無い他国の上空で戦闘は出来ない……。それに、日本の艦船などに全くの被害も無い。だから……」
「合意なら直ぐにでも!」
「装備についても、現状、目視できない距離では龍人と敵を識別出来ない!」
「では、飛行兵器は……」
「無理です!ニホンからアラックを超えて、ここまで来るのは難しい」
『いせ』艦内
「既にかなりの数が墜とされています!」
「言っているが、我々には他国の領域での戦闘は厳しく制限されている。……だが、あくまで興味本位で聞きたいな?」
「アラックの相談役による報告で、成体の龍は体表が鋼を上回る鱗で覆われている一方で、帝国のワイバーンは羽毛で覆われ、前面に鎧を装備しています。RCSでは明らかに識別が可能な差があります」
レーダーを利用した航空機の識別には、RCSと反射波形が用いられる。
RCSとは、レーダーを利用した、航空機の識別に利用されている概念。一般的に機体規模が大きくなるほどRCSは大きくなる。ステルス機はその限りではない。
反射波形は、機体の形状によってそれぞれ異なるが、同一の形状であれば一致する。つまり、過去に記録した波形の照合によって機種を識別できる。
現在ではコンピューターの高性能化によって、より詳細に識別できるレーダー観測情報の画像化が容易にできる様になっている。特に軍事分野では年々、RCSや反射波形照合のみで識別する手法は減少していると思われる。
また近年では電子戦の高度化により、レーダー観測情報に含まれる電磁波のノイズが増加すると考えられる。レーダー情報の画像化ではノイズ処理を容易にできる
「なるほど……だが、証明は出来ない」
「艦長!『いせ』には静止軌道の通信衛星を利用した、通信装備があります!本国へ照合要請すれば証明が可能です!」
「備えは必要だな。何事にも……横須賀に要請してみようか」
宮廷、応接間
「ですから、疎開希望の方達がソウ帝国上空で攻撃を受けています!支援を!」
『政府は難色を示しており……』
「シャハール王朝側は領内の日本による防衛行動を認めており、要請しています」
『(はい……はい、そうですか。そう伝えます)日本政府の方針が固まりました』
「方針?」
『王朝領内に進入した時点で、防衛力行使を認めると……」
「ではそれまでは」
『非関係国の領内での防衛力行使は、如何なる場合でも認められません!』
「そんな……」




