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転移災害後の日本 〜生存への試み〜  作者: かっちゃん
東方大陸、ウォンヤン半島編
16/35

退屈な移動

粟田はシャハール王誘拐について、日本政府に報告した。

同行することを重ねて伝えると、大型四駆の使用が認められた。


王朝側、王に近いシジャは騎兵部隊を組織していた。


「では、行くぞ!」


軍馬を運用する少数部隊と一台の四駆は、王朝首都の駐屯地にある広場を出発した。



「遅い……」


粟田は退屈だった。運転席を覗き、メーターを見る。


「十五、六って……馬って六十キロぐらいだった様な……」

「そうでもないですよ。競走馬は長距離を走らないですから」


運転手が独り言に反応する。この四駆は、騎兵と一定の距離を維持していた。


「そうだ。アラックの馬より速いくらいだ」

「そうかな?」

「ああ、さすが大陸の馬だ。良く改良されている様だ」


オズはフロントガラス越しに、前を走る馬を見ていた。


「粟田さん、陛下は何と仰っているのですか?」


運転手にはオズの言葉がわからなかった。


「アラックの馬より速いって。あと、良く改良されているって言ってる」

「ありがとうございます。成る程、馬に関心があるのですね」


粟田は運転手に尋ねる。


「名前を聞いても?」

「はい。私は佐川 義樹と言います。所属と階級は現在、外地での行動規則により、告げる事は出来ません。申し訳ありません」


現在、日本政府は国内情報の海外発信について制限している。

特に、技術情報、科学研究論文、防衛に関する情報などについては罰則規定まで設けている。

国会内では、義務教育レベルの教養が転移災害後の世界に及ぼす影響について議論されている。


「構いません。では、佐川さんと呼ばせて頂きます」

「わかりました」

「それで佐川さんは、中央大陸の言語を学ばれていないのですか?」


シャハール王朝に派遣されている上、運転手に指名されたことから、粟田は疑問を持っていた。


「一応、研修は受けましたが、単語単語の意味を把握するのがやっとですね。そういえば粟田さんはどうやって話せる様になったのですか?」

「えっ……」


簡単な研修は受けた記憶があった。でも、それ以上は思い当たらなかった。


「自分は一応、研修を受けて……」

「ああ、言うのを忘れてたな!」


オズが突然、思い出した様に大きな声を出した。


「びっくりした。何だよ!?」

「カズマに言語理解の魔法を掛けていることだが……」

「はっ?」


粟田はオズに白い目を向ける。


「そんな融通が利く魔法があれば誰も苦労しないだろう。何馬鹿なこと……」

「睡眠時、もしくは意識が混濁した条件下、基礎言語を新たに増やすことができる。あの時ちょうど酩酊していたから、ベッドに移してから書き込んだ」


粟田は目を大きく開く。


「じゃあ、日本政府が俺を認めているのは……」

「我々の言語に精通している者、と言うことだろう。それも片言でない」


落胆の表情を見せる。


「結局、俺には才能とか、自分だけができる役割とか、無かったんだ……」


自信を失った粟田にオズは貴重さ、有能さを補足し、励ます。


「カズマ、言語理解の魔法は同じ条件下でも万人に使える訳ではない。正確な割合はないが、千人に一人以上であることは分かっている。そういう意味で稀有な存在だと思う」


粟田は頻りに確認する。


「そんな、すごい?」

「ああ」

「役に立つ?」

「もちろんだ」

「俺が必要?」

「お前しかいない。もっと自信を持て!あまり落ち込み過ぎるな」

「わっ……わかった」


その後の粟田は、存在意義を認められ機嫌が戻っていた。



王朝貴族、シジャ・ファン率いる、シャハール王捜索部隊は目的地に到着した。


「あれは一体……」


粟田は窓から空を見上げる。

山荘付近の上空にはブオーンと音を出し飛行する、白い無人機が滞空していた。


「あんなの来てたっけ?」

「海上保安庁のガーディアンですかね。位置的に王朝で離陸させたのかな?」


運転手の佐川が粟田に教える。


「知らないんですか?」

「特に聞いてません。そもそも部署も違いますから」

「いや……さすがニホンだな!あんなモノを生み出すとは……」


四駆を降りたオズは空を見上げ、感心していた。


「いや、あれはアメリカ製の機体……日本が開発していない」

「そうだったのか。あれは、アメリカの機体なのか?」

「アメリカは前の世界にある超大国。経済、軍事、あらゆる指標の多くで、世界一を有している」

「……世界一……」

「軍事力はアメリカ単独で世界全体の半分以上、つまり単独で世界を支配できるくらい凄い!」

「……わかった」


オズは粟田の話に驚いていた。


「そろそろ整ったようだ。また教えて欲しい」


こうして車内で話している内に包囲が完了したと知らせが入った。

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