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第4話

「サラ、マリーの面倒を見てちょうだい。夕食の準備に忙しいの」

「分かった」

 3番目の子のサラに、まだ乳飲み子である末娘のマリーの世話を、私は頼んだ。

 

 それにしても、ユーグも自分も子どもが好きな余り、子どもをつくり過ぎてしまったような気がする。

 ただでさえ、日本にいるユーグの子への養育費とか、妻、忠子への婚姻費用とかが掛かっていたのに、子どもを増やして、どうするのだ、と周囲から叱られて、私たちは当然だ。


 先日、2度目の世界大戦が始まり、夫のユーグは、新設の歩兵師団長に就任し、出征していった。

 とはいえ、夫が師団長を務める歩兵師団の駐屯地は、私達が暮らす家から、50キロも離れていない。


 更に言うなら、第二次世界大戦勃発直後から、私達の祖国フランスは、同盟国であるポーランドを事実上見捨てて、守勢に徹した。

 そのために、ポーランドは、独ソからの挟撃を受けて、1月も持たずに崩壊してしまっている。

 英米日の援軍が到着してから、フランス軍は攻勢に転じる、と新聞等は報道しているが、英はともかく、米日は、ソ連軍の極東大攻勢に対処するのに懸命になっている有様だ。

 こんな戦況では、攻勢に転じるのは、来年どころか、再来年以降の話になるのではないだろうか。


 こういった戦況の中、ユーグから、1泊2日で、自宅に帰ってくるとの連絡があったのだった。

 私は、久々の御馳走を作ろう、と考え、子ども達と協力して準備を進めた。

 ユーグが留守の間に、日本からユーグ宛の手紙が届いている。

 何が書いてあるのだろうか?


 夕食を済ませ、小さい子から眠りにつき、私が気が付けば、家族の中で目覚めているのは、ユーグと私だけになっていた。

 私が、食事の後片付けや子どもを寝かせつけるのに奮戦している間、ユーグはそれなりに協力してくれたが、その合間を縫って、日本からの手紙に目を通していた。

 2人きりになったのを機に、ユーグは口を開いた。


「あの手紙は、幸恵からだったよ。千恵子の結婚式の写真が同封してあった。総司や、千恵子の夫、勇がもうすぐ、ここに来るということだ。日本海兵隊員としてね」

「えっ」

 ユーグの言葉に、私は驚いたが、その言葉の内容が、頭に染み渡るにつれて、驚きは薄れた。

 要するに、ユーグと同様に、ユーグの子らも、日本海兵隊員、サムライとしてフランス救援に駆けつけてくるのだ。


「それで、この際、私を何発か殴らせろ、と総司や勇は言っているとのことだ。まあ、気持ちは分からないでもないがね。金を送るだけで、父親らしいことはしていないから」

 ユーグは苦笑いをしながら言った。

 私も苦笑してしまった。


「2人とも、君を殴るつもりはないらしいから、君は安心していい。サムライとして、女に手を挙げられないのだろう」

 ユーグは言葉をつないだ。

 私は、思わず、ほっとしてしまった。

 私も殴られて当然の身だからだ。


「それにしても、子ども達に、いよいよ言うべきかな。母親違いの兄や姉がいることを」

 ユーグは、私に問いかけた。

「言わないといけないのでは」

 私は、呟くように言った。


 私の本音としては、言ってほしくなかった。

 私たちが不倫関係にあり、アラン達は、自分達が不義の子だと分かってしまう。

 だが、最早、隠し通せないようだ。


 ユーグも覚悟を固めたのだろう。

「では、長子のアランにまず告げて、順次、告げていこう。子ども達のショックが小さければいいが」

 ユーグは、自分にも言い聞かせるように、私に言い、私は肯いた。


 そして、アラン以下の私達の子ども達は、私達の話を素直に受け入れてくれた。

 おかげで、私たちの家族に、ひびが入ることは防ぐことができた。


 そして、ユーグは、総司と勇に、数発程殴られる羽目になった。

 作中で、ユーグのいるところから50キロも離れていない、という表現があります。

 念のために書きますが、ユーグのいるのは駐屯地であって、独仏両軍が対峙している最前線からは、当然のことながら、もっと(作者の私の設定では、200キロ程)離れています。

 読み返してみて、誤解されそうなので、念のために申し添えます。


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