魔法使いの悩みを聞こう
ちょっと平凡(?)にジェラードの科学者っぽいところを。
「お、美味しい……」
涙を流しそうな顔で、じゃなかった泣きながらハンバーグを食べている男がいた。
三十代くらいの人で、ローブを着ていて杖を立てかけているところを見ると、魔法使いなのかも知れない。ギルさんに続いて二人目、なのかな? あたしが知らないだけかも知れないけど。
あとまぁ気付いたこととしては、足元に背負い袋みたいなものを置いてることかな? どっか遠くに行くんだろうか。
男が片手を上げたので、お盆を抱えたアイラが近づいていく。
「どうされましたか?」
「とても美味しかったのでお礼を。この町を出る前にいい思い出ができました。」
「……出られる?」
「はい。」
一度泣いたことでスッキリしたのか、どこか晴れ晴れした笑顔だ。
「魔法使いとしての上手くいかなくて、田舎に帰ることにしたんですよ。」
「そう、ですか……」
アイラもなんて返したらいいか困っているようだ。
「物を腐敗させるだけの魔法しか使えなくて…… って食べ物屋さんでする話じゃないですよね。」
「はぁ……」
「いや、興味ありますな。」
あれ? いつの間にかにジェルが魔法使いの男の前に移動していた。さっきまで同じテーブルにいたはずだが、って気にしちゃ生きていけんか。
「あなたは?」
「私はジェラードと申します。魔法は使えませんが、魔法について研究しております。できればお話を聞かせてもらえませんか?」
おお、なんかジェルが科学者というか、学者っぽい。男と同じテーブルについて、食器を下げに来たアイラにハーブティを三人分頼むと、あたしの方を見て小さく首を傾げる。
あ、いいの?
いいみたいなんで、ジェルの隣に邪魔にならないようにひっそり座る。
「改めて自己紹介を。私の名前はジェラード。隣はラシェルです。彼女のことはあまり気にしなくても結構です。」
酷い言われようだが、逆に何か聞かれるのも困る。
「ご丁寧にどうも。私はヨハンと言います。
魔法使いでしたが、まともに使える魔法が無くて、田舎に帰ることになりました。」
改めて言うが、この世界には「魔法」があり、魔法を使える人を「魔法使い」という。
魔法はなんかムニャムニャ唱えると、手から火の玉とかが出てくるイメージだが、おおむねそれであっているらしい。
他にも魔物を呼び出すことが出きる召喚魔法や、神様の力を使う神聖魔法とか、精霊魔法とか色々あるそうだ。
というか、それこそ魔法は千差万別で、同じように見える魔法でも法則が違えば本来は別の魔法なんだとか。
まぁ、小難しい話はジェルに任せる。
このヨハンさんは魔法使いの中で魔術師と呼ばれる魔法使いだそうだ。で、話を戻すと、魔法使いはそれこそ魔法を売って生計を立てている。
例えば街灯に魔法の灯りを点けるとか、水や氷を作ったり、土木工事のようなことをしたり、と魔法使いはどこでも引く手あまただ。それこそ争いの「道具」になることだってあるだろう。その他に冒険者になったり、前に会ったギルさんのように城勤めみたいな生き方もある。
で、ヨハンさんは残念なことに、適性がなかったのか、気休め程度の魔法しか使えなかった。何か一つでもお金になる魔法があれば良かったが、やっと見つけた魔法がその「物を腐敗させるだけの魔法」だった。
「こんな魔法があったところで、せいぜい生ごみを処分するのが関の山でして。」
ヨハンさんが疲れたように首を振る。
「さてヨハンさん。『腐敗』ってどういう現象かご存知ですか?」
「?」
首を傾げるヨハンさん。そりゃそうだ。この世界に「菌」という概念は無いはずだ。……ん? そうなると、どうやって「腐敗」させているんだ?
「実験してみますか。」
白衣のポケットからリンゴを取り出すと――もうどこに入ってたかは聞かない――、アイラに頼んで持ってきてもらった木の皿の上に置く。
「ちなみに魔法を使うとどれくらい消耗します?」
「これくらいでしたら……」
リンゴに手をかざして、ヨハンさんが小さく呟き始める。手のひらからモヤモヤと何か出てくると、リンゴに降りかかる。
「おぉー」
見てる間にリンゴがシワシワになり、黒っぽく変色し、形が崩れていく。十秒くらいのことだろう。なんかこー凄い。
「そこまで消耗はしませんね。
連続で使い続ければさすがに、ですが。」
「…………」
ふむ、とジェルが考え込む。
「博士、これってもしかして……」
いつの間にかにギャラリーが増えていた。
アイラとリーナちゃんがあたし達の後ろで一緒になって眺めていた。
「うん、たぶんリーナの予想通りだろう。もう少し観察してみないと確証は持てないがな。
とはいえ……」
白衣のポケットから小さな装置やカメラっぽいものを何個も取り出して、調整を始める。その「魔法」じみた出し方にヨハンさんが目を丸くする。
「色々確認したいことがあるので、ご協力をお願いいたします。もしも私の予想通りだとしたら……」
ジェルがニヤリと笑みを浮かべる。
「あなたの魔法がとても素晴らしいことを証明いたしましょう。」
その言葉に半信半疑なんだろうけど、ヨハンさんはどこか期待するような顔でコクリとうなづいた。
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