平和をかみしめよう
カエデパートがまだ少し残っていたせいで、今回はちょっと長め
普段からこれくらい書けたらいいのですが……
ちょっと時間はさかのぼって。
「はい?」
「ワシもハンブロンに行きたいと言うておるんじゃ。狐娘の馬車なら一人くらい増えても大丈夫じゃろうて。」
わがままを言ってる自覚があるのか、グラディンの口調が砕けたものになる。
「のぉのぉ、ワシもお主の馬車に乗ってみたんじゃあ。その『雄牛の角亭』の見たこともないメシを喰ってみたいんじゃあ。」
ジタバタと老婆に似合わない機敏さで腕をブンブン振り回す。
「婆さん、何かに悪いもんが入ったんか?」
この世界には悪霊や精霊、それこそ神様まで、良いものも悪いものも入って人を惑わすことがある。
「違うわ! 狐娘があんなもの見せるからワシの好奇心が抑えられなくなったんじゃ。」
「……無理やり見せろと言うたんは狸婆さんの方やろうが。」
「細かいことはどうでもいい。」
いや、良くないと言うカエデを無視して、グラディンが拳を握りしめる。
「ワシは最近ずっと退屈でな。もう商売にも飽きかけていたところじゃ。」
「…………」
意外なカミングアウトに思わず言葉を失うカエデ。彼女が初めて会った時からの老婆で筋金入りの商人だった。いつまでもそうだと思い込んでいた。が、
「狐娘の見せてくれた資料にはビックリじゃ。ワシにも知らないことがあんなにあったとは! ……なんでな、店を辞めてきた。」
「なんやてー!!」
新たなカミングアウトにカエデは思わず絶叫した。今二人がいるのは「森の蜂蜜亭」の一室だが、時間が朝食後なので、そこまで迷惑にはなってない。
「もともと、いつでも辞められるように手回しはしておいたのじゃよ。それがたまたま今日だったわけじゃ。」
はぁ~とカエデがため息をつく。巡り巡って考えたら、グラディンの決心は自分のせいとも言える。
「のぉ、狐娘よ。」
グラディンが一瞬真剣な顔をしたので、カエデが息を飲むが、直後に満面の笑みを浮かべる。笑い皺のせいで顔の造作が分からなくなるくらいだった。
「ワシは久しぶりにウキウキしておるのじゃよ。それにこの顔も長いので飽きたところだしな。」
「……は?」
何を言ってるか分からない。
「種明かしは後じゃ。とっとと王都と出るとしようか。」
早よせい早よせい、とカエデの尻を(イメージ的に)叩いて急かす。頼まれていた物を探す予定で、出立するつもりは無かったのだが、グラディンが一通り用意してしまったらしい。となると、カエデに王都に長居する理由はなくなった。
「あ、そや。」
ふと笑い方が独特な服屋の店主のことを思い出す。
「狸婆さん、もしかしたら服飾系が伸びるかも知れへんで。」
「そうか。一言伝えておくか。
お主は馬車を出しておいとくれ。」
「へいへい。」
なんか有耶無耶の内に同行することが決定してしまって、諦めたかのようにカエデは気のない返事をした。
「へぇ……」
暗黒馬車からは岩塩の板が消えて、いくつかの木箱が袋が積みあがっていた。中では箱型汎用作業機械がいそいそと木箱を積み替えてはワイヤーで結束している。
「自分ら働きモンやなぁ。」
感心感心、と馬を回してきて暗黒馬車に繋ぐ。
「ほな今日も頼むな。」
ブルン。
「おお、ホントに黒いな。」
「ほっといてや。」
身軽な旅装束姿のグラディンが小走りにやってくる。見かけの割には足元がしっかりしている。どうもさっきから違和感が拭えない。
「ほぉ、こ奴らがそのキューブとやらか。」
勝手に荷台に乗り込んだグラディンにキューブ二体が梱包の手(?)を止めて正面(?)を向く。
「あー 待て待て。確かに怪しいが、一応はウチの知り合いやねん。」
カエデが御者台に乗りながらそう説明すると、キューブが再び梱包に戻る。ほどなく終わり、荷台には二人が横になっても余裕のある広さが確保された。
「ほな行くで。」
いつの間にかにキューブも表面を木箱と同じ模様に変えると、荷物の一つのような顔(?)をして動かなくなる。
パカラパカラとモミジが足を進めて、王都の北の門へと向かう。門を出るのにも門番のチェックが入ったが、グラディンが顔を出すと、すんなりと表に出られた。
「やっぱ大物は違うんやな。」
「そんなんじゃないわい。まぁ、グラディン婆さんは今日で隠居予定だけどな。」
「あん?」
荷台から聞こえる声の質が変わって、思わず振り返る。そこにはカエデよりもちょっと年上くらいの美女が佇んでいた。
「……脱皮?」
「するか! ワシじゃよワシ、グラディンじゃよ。」
カエデの突拍子もない発想に、若返ったと思われるグラディンが声を荒げる。顔も声も若い女性なのに口調は変わっていなかった。
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『そんなわけや。ウチも知らんかったんやけど、狸の獣人の中には自分の姿を変えられるんのがいるんやて。』
まぁ、あたし達にはそのグラディンさんが元々どんなお婆さんだったか分からないから、コメントのしようがないっちゃないんだが。
というか、それが本当だとしたら、このグラディンさんっていくつくらいなんだろ?
「……ねぇ、もしかしてカエデも実は、とか言わない?」
『は……?
な、何言うとんねん! ウチは見ての通りのピッチピチのヤングや! 狸の婆さんと一緒にせぇへんでや。』
『だ~れ~が婆さんじゃ。こんな美女つかまえて何を言うか!』
狸耳の美女がカエデのこめかみを両手の拳でグリグリしている。
ああ、あのお仕置き、って異世界にもあるのか。
「これ以上用がないなら切りますよ。」
『ちょ、ちょい待ち! ウチがこんな目に遭ってるんに放置かいな!』
ポチ。
ジェルが何かのボタンを押すと、カエデの悲鳴じみた声と画像が一瞬で消える。
「楽しそうでしたな。」
「そうね。」
この時点から関わって面倒にはなりたくない。とにかく、無事そうで何よりだ。
別のディスプレイがまた宙に現れて、流れる文字列をジェルがふんふんと読み流す。どうしたの? と視線を向けると、簡単に説明してくれた。
「道中、二度ほど襲われたようですな。」
「はぁ?」
「一度目は夜に野生の狼っぽい獣に。もう一回は昼間に山賊っぽい感じの輩に。」
口調が落ち着いているので、何ともなかったんだろう。カエデも元気そうだったし。
「キューブで見事撃退ですね。こちらの世界の生物も、身体的な能力はそう大差ないようですな。
ただまぁ、この世界には『魔法』やそれに類するような超常能力があるようなので、まだまだ調査と警戒が必要なようですが。」
まぁ、あたし達がいた世界にもサイボーグだのバイオモンスターとか訳の分からないものもいたし。カイル曰く、殴って効くならいつかは倒せる、だったっけ。
まぁ、あたしには関係ない話だけどね。
自慢じゃないが、未だにジェルに見捨てられたら生きていけない自信がある。
「ただいま戻りました。」
そんなこと考えていると、リーナちゃんたちが戻ってきた。肉には困っていないので、買ってきたのは野菜が中心だ。消費量も激しいし、大きな貯蔵庫&冷蔵庫があるので大量に買ってきても困らない。
ちなみにカイルは肉ばっかり食べているイメージがあるかも知れないが、野菜もそれ以上に食べている。バランスの悪い食事は身体に悪いだろ、が本人の弁だが、大食いはどうなのかは疑問だ。
「おっ昼ー!」
「めしめしー!」
誰かさんのの身体の神秘を考えていたせいか、エンゲル係数に貢献している二人も戻ってきた。畑仕事で汗だらけ土まみれのリリーとカイルがシャワー室に飛び込んでいった。
奥から炒め物のような音が聞こえてくる。野菜炒めとかそういう感じだろうか。今日のご飯も期待できそうだ。
……でもまぁ、予言というか未来予知というか。
こんな平穏はきっと長く続かないんだろうなぁ、と思います、はい。
お読みいただきありがとうございます。




