カエデの暗黒馬車珍道中(その11)
タブレットPCのバッテリーが放っておくと減るという謎の減少のため、しばらく使えなかったのが痛い。……高速起動とか、スリープとかホントに必要なんだろうか。
と、気づくとブックマークが3件増えておりました! ありがとうございます!
あと、更新時間が中途半端になりました。済まぬ……
『元々貴族というのは、王より地位を与えられてますが、それは飽くまでも領民を守るためだと思いますが。』
カエデにとって聞いたことがある声が星が見え始めた王都の中に響く。あちこちで人々が空を指さしてその映像に目を向ける。
『へぇ! よく分かりませんが、そのスコロバストって人に逆らうと、死んでしまうのですか! つまり私に対して殺意があると!
逆らう、って言うのも、これ頂戴、って言われて、あげなかったからですか!』
貴族の使用人みたいのが、平民の店や従業員の女性を「接収」しようとしているようだ。それを声だけだが、男性が真正面から断っている。
男性の言うことは正論で、たとえ貴族とはいえ、理由もなく平民の財産を奪ってもよいという法はない。でもそれは飽くまでも建前で、身分や力関係で「下」の者が虐げられるのは世の常だ。
『ふざけるなぁ!』
『よく分かりませんが、町中で剣を抜いて斬りかかるのって、罪にならないんですかね?』
空に浮かんだ映像の中で、使用人らしき男が激高して剣らしきものを抜くが、何故かいきなり倒れてしまう。
『もうよい。余が直接話そう。』
代わりに貴族本人が映像の中に現れる。
さっきから引っ切り無しに街の衛兵が走り回っている。おそらく映像の元を探しているのだろう。
「……こらアカンな。」
「のぉ狐娘。心当たりがあるんだろ?」
「メッチャある。」
たぶん暗黒馬車に仕込んであったんやろうな、と当たりをつけるが大正解である。幌の隙間に偵察用と映像用のドローンを収納していたし、汎用箱型作業機械が野宿をするたびに、中継用のアンテナを設置していたことにはカエデは気づいていない。
中継用のアンテナは無くても力任せに通信は出来るが、アンテナがあった方が出力を抑えることができる。
この世界では機械自体が存在しないので、それを動かすエネルギーも無い。今は太陽光発電でどうにか賄っているが、節約するに越したことはないわけだ。
「これは…… どうなるんやろ。」
「まぁ、少なくともあれだけデカい声で名乗ったら、本物でも偽物でも捕まるわな。」
「もう少し近くの未来やと?」
そうさのう、とグラディンが腕を組んで考え込む。
「多分、あのバカ貴族の相手をしている奴らは強いのだろ?」
「そうやなぁ。見たことないけど、弱そうには見えへんかったな。」
「……となると、どこまで『やる』気か。」
貴族本人が出てきて、偉そうな口上を述べるが、すげなくあしらわれている。
『つまり、この国の王様は、貴族が平民から物を奪ったり、娼婦になることを強制したり、殺しても構わない、と言ってるのか。』
『そうだとも!』
空の映像の中で、質問者が誘導をしているのもあるが、顔を紅潮させた貴族がそう吼えた。ただしそれはまともな国だったら不敬極まりない発言であり、そしてこの国コンラッドはごくごく普通に「まとも」な国であった。
『そこまでだ。』
腐りきった貴族の戯言を遮るように一人の戦士が映像の中に現れた。まるで英雄のような登場に街中がどよめきに包まれる。そして、その戦士がこの国の王子であることに気付いた者がいて、その事実が一気に王都中に広まる。
どよめきが歓声に変わる。
王子と一緒に現れた魔法使いが、地面を突くと、腐れ貴族の取り巻き達が一瞬で全滅する。まさに英雄譚の登場人物のようだ。
「なんや、あの魔法使いの兄さん、驚いておらんか?」
「ワシにもそう見えるな。」
取り巻きを失った腐れ貴族が虚栄をはって王子を恫喝するが、剣を掲げて名乗ったところで、歓声が更に高まった。
今度はへりくだったり、裏工作をあっさり潰されたり、情に訴えるなど悪あがきをしていたが、自分の言動を見せられて抵抗する術を失った。
『衛兵! この反逆者を捕縛せよ!』
王子の声に、衛兵が呆然自失となった貴族を取り押さて、映像の中から消える。王都内に拍手の音が響き渡り、そして空を彩っていた映像が消え失せた。退屈な日常にいきなり現れた活劇のような映像、しかもこの国の王子が活躍したはとてもいい娯楽だったようだ。色々疑問はあるものの、楽しんだ人たちが家や宿へと戻っていく。
「まぁ、なんや。おもろかったな。」
「……そんなもんで済めばよいがな。」
グラディンが目を閉じて顔の皺を深めてブツブツ考え出す。
「狐娘! 悪いがお主の知ってること全部話せ。あとはワシが考える。」
「……しゃーないか。でも秘密は守ってもらうで。ウチにとっては飯のタネや。」
「分かっとるわ。小娘のくせに生意気言うようになったじゃないか。」
「運が良かったんや。」
こうして、カエデはグラディンに洗いざらい(というほど色々知ってるわけじゃないが)話すこととなった。
「ちょっと考えたんだがな、お主のその馬車に積んでいるキューブとやらなら、ハンブロンの町のその『変わり者』達と話ができるんじゃないか?」
「なんやて?」
夜遅くまで話して、そのあと別れて「森の蜂蜜亭」に戻ったカエデ。翌朝、熊の主人が作った「卵と乳を使って柔らかく焼いたトーストみたいな物」を食べていると、グラディンがひょっこり顔を出した。
熊の女将が驚いた顔をしたころを見ると、大きな商会のトップの顔は相当知られているらしい。
「そうだろ? ハンブロンの町までどれくらいあると思う。それでああやって絵と音を送ったんだ。できないはずがないだろうが。」
「……そやな。」
言われてみればそうだ。
あれだけ色々企んでる奴が、そんな簡単なことを仕込んでいないはずがない。
「後でやってみるわ。
そんなんよりも、頼まれたモンを探さんとな。手ぶらで帰ったら何言われるか。」
「それならワシがすでに用意した。」
「なんやて?」
カエデの記憶だと、この狸婆さんは守銭奴かつケチだったはず。
「失礼なことを考えとるな。ワシは金の使いどころを見極めてるだけだ。」
「せやかてなぁ。」
「ええい、グダグダ抜かすな。
その代わりと言えばなんだが、ワシもハンブロンの町まで連れていけ。」
「はい?」
獣人としての勘じゃなくても、面倒にしかならない未来しか感じられなかった。
ANOTHER MISSION:王都での商売を成功させよう
...MISSION COMPLETE
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次回から久々にラシェル視点に戻ります(たぶん)




