カエデの暗黒馬車珍道中(その8)
一日遅れなうえ、駆け込みです。申し訳ない
狐の獣人で、自称凄腕ほどではないが、やり手の商人であるカエデの計算違いは、新しいレシピを提供したら、それなりに出てくるかと思っていたことだ。
「ごめんねぇカエデちゃん。」
レシピの研究を本当に寝る間も惜しんだため、あの熊の主人がダウンしたとは思いもよらなかった。女将の方は料理はからっきしなので、朝食はパンと簡単なスープで朝食を済まされた。昨日のおまけの意味が無かったような気がする。
足りない分は途中でどうにかしようと思いながら、暗黒馬車を出して商人ギルドを目指す。さっさと二重の意味で重たい荷物を片付けたいところだ。
流通の要でもある商業ギルドは、王都を南北に走る大きい街路沿いにある。道幅が広いので余裕をもって暗黒馬車を走らせていると、追い越したりすれ違う人たちがギョッとした顔をするが、もうそろそろ慣れてきた。いちいち落ち込んでいても銅貨一枚の価値もないことに気づいたわけだ。
広い王都とはいえ、道路が整備されていれば、馬車でほどなく目的地に到着する。商人ギルドは多くの商人と思われる人と馬車で賑わっていた。
カエデの暗黒馬車に一瞬は驚きの目が向けられるが、次の瞬間には値踏みをするような好奇の視線へと変わる。
(お~ 怖い怖い。)
この馬車の「性能」を知ったらどうなることやら、とひっそり優越感に浸るカエデであった。
「邪魔するで。」
ザワザワするギルド内をすり抜けて、一つのカウンターに向かうと、ギルド内の視線がカエデに集中する。カエデが向かった「特産品」のカウンターで、それはすなわち、どこかの町で新しい販売品ができた、ということだ。しかも特産品ということは基本的に価値が高いものである。この制度の本来の目的は生産品の箔付けとともに、密造品の防止である。同じ生産品でも、無名の産地よりは有名な産地の方が需要は高くなり、相場も高くなる。
そうなると有名産地の名前を騙る粗悪な偽物が出てきたりするのだが、それを防ぐために「名前入り」の販売品を売る場合は商人ギルドの審査を通すことにより、適正な品質と価格を維持することを図るのだ。
それでも不正が無くならないのは世の常ではあるが。
「どこの何を登録に来ましたか?」
「ハンブロンの町で、物は砂糖や。」
カエデの言葉に、ギルド内のざわめきが大きくなる。外に走り出すもの、地図を広げる者、、カエデを観察して少しでも情報を導き出そうとする者。
(ハンブロンの町は鉱山系の町では無かったのか?)
(いや、農産物も木材もあるが、サトウキビができるような気候ではないはず。)
(生産量によるが、砂糖の相場が大きく変わるぞ。)
狐耳は商人たちのひそひそ話もしっかり捉えていた。その内容に思わず感心する。
(予想その一、サトウダイコンがあんまり広まってないパターンやな。)
道中読んできた資料にも書いてあった今後の予想の一つだ。ただ、おそらく砂糖の値段は下がるが、需要は思ったより伸びないだろう、とも書いてあった。
その理由としては、そもそも砂糖自体高級品で、使う機会自体が少ない。デザートの概念も庶民にはまだなく、甘いものと言えば果物とか木の実が関の山だ。砂糖がすぐに浸透するとは思えない、ということだ。
色々考えている間に手続きは進み、価格も南国産(つまりはサトウキビによる砂糖)よりも、運送距離も考えて安めに設定。
その価格でカエデが持ち込んだ砂糖を商人ギルドが買い取って、特産品の登録は終了だ。
ギルドの職員が砂糖の袋を次々と暗黒馬車から担ぎ出す。最初は色に驚かれたが、すぐにスルーされた。
「ほなよろしゅうな。」
手続きが済み、カエデが王都に来た一番の目的は完了した。後は預かった岩塩を捌いて香辛料を探すという仕事もある。
「それは明日やな。」
暗黒馬車と馬を宿屋に戻し荷物を手に町中に戻る。向かったのは一軒の服屋だ。見かけは白い外見の普通の店に見える。
その前でカエデの足がぴたりと止まる。
気が重い。
腕もいいし、センスも良く、服飾職人としては文句がない。服飾職人としては、だ。
「あ~ カエデみ~っけ。」
なんか甘ったるい声とともに、背筋に寒気が走る。背後にいつの間にかに一人の女性が立っていた。
年齢不詳。妙齢の女性に見えるが、この世界だと見かけの年齢が人間基準に合わない場合があるので、余計に年が分かりづらい。
美人ではあるが、目が潤みがちで、どこかふわっとした空気をまとっていて、掴みどころがない。そんな人だ。
「王都に来てたなんて知らなかったわぁ。でも服のストックはまだ大丈夫なはずね。
もしかして、このあたしに何か相談なのかな~? あ~ カエデの愛を感じる~」
楽しそうに口もちに手をあてて、くぷぷと笑う「彼女」。
腕はいいんだ、腕は。
どこまで本気かどうか分からない、微妙に難儀な性格が唯一かつ最大の問題点であった。
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