カエデの暗黒馬車珍道中(その6)
どうも書くペースが安定しません。
もう少しプロットを考えてから書かないとアカンか……?
「お?」
ハンブロンの町を出て六日目。ペースが早く感じられたので、逆にのんびり進んでいたカエデ。それでも想定よりも一日早く王都コンラッドが見えてきた。
馬車の性能もあるが、夜ゆっくり休めているのでカエデも馬も疲労が溜まってないのも大きい。
王都コンラッドは王都だけあって、高い城壁に囲まれていた。さすがに何度も来たことはあるので驚きは無いが、それでもその大きさには心が躍る。
北の大門にはたくさんの人や馬車が並んでいるのが見える。ハンブロンと違って、もっと厳密な検査があるため、中に入るにはなかなかな時間がかかる。
そうそうあることではないが、人が多かったり、王都内で何か起きたりして、夜になっても入れずに野宿せざるを得ないこともあるそうだ。
昨日は少し無理して遅くまで移動し、朝も早めに出てきたので、朝一番とは言わないが、それなりの時間に到着することができた。
それでも同じことを考える人は多く、または、入るタイミングを考えて城壁の周りで夜を過ごした者もいるのだろう。あんまり夜の閉門の直前に王都に入ったところで、宿に泊まって終わりなら、野宿の方が金も手間もかからない、ということなのだろう。
外が危険とはいえ、城壁の、しかも大門の近くなら、猛獣や盗賊に襲われる可能性も少なくなる。それこそ同じことを考える人たちがいれば、より安全に夜を過ごせるわけだ。
「やっぱ盛況やなぁ。」
ゆっくりと近づいていくと、馬の足音が聞こえたのか、並んでいる人達の一部が振り返って、一斉にギョッとした顔をする。
(やっぱコレはアカンか。)
もう諦めの域に達したのか、顔に出さずにガッカリできるようになった。小さな馬車で、御者が美人の獣人なら、声の一つもかけられそうだが、真っ黒の馬車のせいかおかげか誰一人声をかけようとしない。
それでも「何故漆黒の馬車なのか」ということで、注目を浴びているのは仕方がないことなのかも知れない。
(なんかままならんなぁ。)
誰もいない街道を進むのは退屈なのも仕方がない。ただ、人がこれだけいるのに、誰とも話ができないのは何とも寂しい。情報収集もしたかったが、さりげなく聞き耳を立てるだけにしておく。
とりあえずこっちの様子を窺っているのは分かった。最初は不気味がる声が大半だったが、目敏い者が暗黒馬車の性能に気づきかけているようだ。
(あの馬車静かだな。)
(荷物の音も聞こえないな。揺れが小さいのか?)
(となると、あの黒いのも何かわけが……)
見る人が見ればカエデの馬車の凄さに気づくのだろう。
(せやかて、この馬車は譲れへんし、売る気も無いさかいにな。)
今更ながらたぐいまれな幸運で借り受けた馬車だ。この馬車と馬と汎用箱型作業機械さえあれば、地の果てまでも行けるような気がする。
(でもホンマはもっと凄いもん隠してるんやろうなぁ……)
そんなことをぼんやり考えていると、並んでいる人達の列が少しずつ動いて前に進む。モミジは慣れているのかカエデが特に何をしなくても列の前を見て、ゆっくり歩いてくれる。ただそれは今までの馬車の話で、すっかり軽く滑らかになった暗黒馬車は少し引いただけでも慣性でそのまま進んでしまうので、キューブが陰でこっそり回生ブレーキをかけていることにカエデは気づいていない。
「よし次だ!」
太陽が真上になる前に、カエデの番がやってきた。今回はハンブロンの町の領主からの依頼で新しい名産品――甜菜糖の届け出に来たので、領主直筆による依頼書がある。それがあれば、王都に入るのも容易い、はずだ。
が、なぜか目的や依頼書を見せたところで、カエデの担当の門番は首を縦に振らず、良く調べる、と馬車を脇に寄せて、カエデを門の所にある詰め所に連れ込まれた。
(うわ、ややこやしい奴や……)
女性一人で旅商人なんかやってると、たまに舐めた態度をとってくる輩がいる。難癖をつけて、袖の下やもっと直接的な要求をしてくる場合もある。
(べっぴん過ぎるのも考えもんやな。)
そしてこの門番は、典型的に真面目になる方向性を間違えたようだった。いかに「良い目」を見るかと、それをいかに隠ぺいするかに心を砕いているようだ。
「俺が認めなきゃ、お前はいつまで経っても中に入れないんだぞ。」
「貴族の名入りの依頼書を偽造したとなれば死罪もありうるわけだ。分かるだろ?」
「お前たちが商売をできるのも、俺たちみたいのが治安を守っていることを忘れるな。」
その言葉の合間に、嫌らしい視線がカエデの身体をなぞる。
(こらアカンな。タチの悪い奴や。)
手慣れている。どれだけ「良い目」を見てきたかは不明だが、門の警備の中でもそれなりの地位を築いているらしい。
(せやけどな……)
馬車を下りる時にキューブが手(?)渡してくれた小箱に目を落とした時に、閂をかけてあった扉が外から無理やりこじ開けられて、沢山の兵士たちがなだれ込んできた。あれよあれよという間に、カエデを脅していた門番を拘束した。
「な、何ごとですか!」
抑え込まれた門番が驚いた声を上げる。喚く門番を無視して、兵士の中でも立派な身なりをした者がカエデに深々と頭を下げる。
「王都の門を守る者に、このような不埒な者がいたとはまさに国の恥。まったくもって、申し訳ない。」
その間にも、カエデの依頼書を確認した兵士が耳打ちすると、身なりの良い兵士が鷹揚に頷く。
「ハンブロン卿のサインも確認できましたので、どうぞお入りください。
願わくば、今回のことでこの街を、この国を嫌わないでいただければ幸いです。」
そう締めくくられて、やっとカエデは解放されることになった。
「自分らやろ? おおきに。」
馬車に戻ったカエデは、表面を木箱に偽装したキューブに小さくお礼を言う。キューブがカエデに渡した小箱は、小型の高性能マイクであった。それが詰所の中の会話を拾い上げて、周囲に流していたとまでは分からなかったが、何かしたんだろうというのは見当がついていた。
こうして、やっとのことでカエデは王都に入ることになった。
お読みいただきありがとうございます
一応あと2話くらいでカエデの話はまとめられるか……>




