カエデの暗黒馬車珍道中(その5)
季節の変わり目で体調を崩しそうなので、皆さまご自愛のほどを
「ぎょうさんあるなぁ。ウチも知らんもんばっかや。」
カラー写真付きのプラスチックペーパーという、存在自体が摩訶不思議な書類をペラペラとめくって眺めるカエデ。
「香辛料もこないにあるんか。ああ、でもこれなんか見たことあるな。」
一応、商人としてのカエデの仕事ではあるが、カラフルな写真付きの資料は眺めるだけでも何とも楽しい。
「……ん?」
めくっていくと、半分くらいから写真が少なくなって図が増えてきた。
「おや?」
微妙に嫌な予感、というか、正確に言うと嫌ではないのだが、面倒になりそうな予感がしだした。
欲しい物リストから、気が付くと料理のレシピに変わっていた。
「ちょい待ちちょい待ち。」
あんまり詳しくないカエデでも分かりやすく書いているあるので、分かる人に言えば簡単に再現できることだろう。
回数は少ないが「雄牛の角亭」で食べた新しい料理。最初に食べた「ハンバーグ」という肉料理の説明もあった。
「なるほどなぁ。肉にタマネギ、後はパンを混ぜてこねてるんか。」
なるほどなるほど、とは言いつつも、あんまり料理ができないので口だけである。レシピは丁寧に書いてあるが、大まかな作り方だけであり、細かい分量までは書いていない。ただ工夫のしどころは書いてあるので、後は料理人の努力次第、というとこなのだろう。
「これはアカンでぇ……」
おそらく料理の一大革命になる。ただ、レシピの隅に「いろんな方に広げて欲しいです」とささやかな希望が書かれてあった。
このレシピを独占したら一攫千金になるだろう。ただ料理である以上、食べる人がいればいつかは作り方を再現できることも不可能ではない。それでも最初のアドバンテージの価値は計り知れない。
「せやけどなぁ……」
これでこっそり金儲け、なんて信頼を換金するような真似はしたくない。こっそりやってバレないように、という心の中の悪魔が囁くが、もっと邪悪そうな笑いをする白い服を着た悪魔の存在を思い出して、慌てて首を振る。
「アカンアカン。商いはまっとうにやるのが一番儲かるんや。
お次は…… お?」
料理レシピの次のあたりに、この世界にはない概念だが「封筒」が挟まっていた。
「これは……?」
そもそも紙自体が高価な羊皮紙くらいしかないので、紙を折って作る封筒自体がありえない。とはいえ構造は単純なので、もったいない気もするが、ナイフで端を切り裂いて中身を取り出す。
「…………なるほどなぁ。」
封印されていた紙に書かれていたのは、確かに秘匿すべき内容であった。
「……これかいな。」
馬車用の貯蔵庫の奥底に厳重にしまい込まれた布の包みを引っ張り出す。包みを解くと、ラシェルやリーナの着ていた服が出てくる。
「布の質が全然ちゃうな。でもデザインは使えるわな。」
そして、服の中に隠されるように、女性にとっての最後の鎧がひっそりと包まれていた。
「こら凄いわ……!」
この世界に伸縮する生地やゴムなどは無いので、それこそ布を適当な形に裁断し紐で縛る、くらいしかない。下手したら着けてない人も多かろう。下がそういう状況なので、上に関してはもっと着けていない人が多い。かくいうカエデは人並み以上のモノを持っているので、布を巻いて押さえたりしているが、わがままボディはなかなか言うことを聞いてくれない。サイズに少々無理があるが、この方向性で作れば上手い事収まりそうだ。
「こら、あの人に相談やな。」
狐の獣人であるカエデは尻尾の処理や、一般の服だと着られないという胸部の贅沢な悩みのため、王都に贔屓にしてる服屋がある。店主の性格はとにかく残念だが、腕とセンスは信頼できる。もしかしたら下着の一大革命を起こすかも知れない。
「……アカン。大仕事過ぎる。」
砂糖を特産品として登録、料理レシピを広め、服や下着の相談。何が起きるか分からない、というか何か起きるのが前提の予感。
「変な方向で有名になるんのもなぁ。」
ただでさえ暗黒馬車のせいで無駄に話題になりそうなのだ。後ろ二つに関して、あんまりお金にならなそうなのに、名声を得てしまう可能性も高い。有名税というのは実入りの割に高いので割に合わないのだ。
「見れば見るほど宝の山なんやけどなぁ。」
少しずつ広めるか、一気に広めるか。時間の制約もあるし、カエデの伝手にだって偏りはある。それに対価をあんまり望めないなら、気持ちの良い商いをしたい。対価があったとしても、ではあるが。
「あー もうアカンアカン。
考えたってしゃーない! 商人は度胸と根性や! なるようになれ、や! もう……」
今更ながら、厄介なことに巻き込まれたなぁ、と思いつつも、やはり大商いにワクワクしているカエデであった。
そろそろ王都につきそうです




