カエデの暗黒馬車珍道中(その3)
なんかリアルが忙しいのぉ
深夜。
この世界の旅人にとっての危険は大きく分けて三つ。。
一つは準備不足や道を見失ったりして水や食料が無くなっての野垂れ死に。後は人間によるものと、人間以外によるものだ。
人間によるもの、というのは簡単に言うと山賊や盗賊だ。特に商人はいいカモなので、冒険者などを護衛に雇って移動するのが一般的である。旅人に関しても、基本的には全財産を持って移動しているので、隊商や他の旅人や冒険者と一緒に行動することにより少しでも安全を確保しようと努力している。
人間以外のものは猛獣や魔獣と呼ばれるものだ。夜は彼らのテリトリーである。街道から離れずに火を焚いて警戒したとしても、魔獣の中には知恵に長けるものもいて、そんなヒトの知恵をあざ笑うように襲い掛かってくるものもいる。
あまり被害が広がれば、兵士や冒険者による討伐が行われるが、やはり猛獣や魔獣の被害は無くなることはない。
ところで、狐の獣人の商人であるカエデだが、様々な策略にはまって、ハンブロンの町から王都への移動中であった。一般的な馬車で王都まではおおよそ七日。ただ、魔改造された馬車の移動速度が予想以上に早く、二日、下手すれば三日の日程の短縮が望めそうだった。ただ、この世界には位置測量システムなんてものはなく、それどころか測量技術も無いので地図も大雑把な物しかいない。あったとしても精密なものは大変高価か、国家や軍事の機密の場合が多い。
そんなわけで、慣れてないと自分が今どこまで進んだのか、というのが分かりづらい。だが途中の村や集落、すれ違う人たちとの情報交換、後は分かりやすい地形などから判断すること可能である。
そんなカエデの一日目の夜だが、彼女たちに近づく複数の影があった。
カエデの馬であるモミジが気配に気づいてブルンと目を覚まし耳を澄ます。
最悪のことを考えて、モミジを繋いであるロープは強く引けば外れるようにしてあるので逃げることもできる。ただ、モミジとしては自分を大事してくれるご主人様のことも心配だ。どうするか判断するために迫る脅威の詳細を知ろうと神経を集中させると、聞きなれない音がご主人様――馬車の方から聞こえてきた。
夜だからか、いつもよりも小さな作動音で四角い物体が二つ、馬車から気配の方へ進んでいった。
それを目で追うモミジだったが、背の高い草原から獣の影が見え隠れして緊張に身を固くする。が、眩い閃光が走ると、獣の悲鳴らしきものとともに、何かが飛び上がって落下する。それが十回に満たないくらい繰り返されると、静けさが戻ってくる。
ブルン、モミジが鼻を鳴らす。
暫くすると、箱型汎用作業機械たちが戻ってくるが、それぞれがオオカミの様なものを引きずってくる。外傷は見当たらないが、全て事切れていた。運んできては置き、置いてはまた草むらに戻って運んでくる。
全部で十体ほどのオオカミの死体を並べておくと、キューブはまた馬車の左右を警戒するように戻っていった。
脅威が去ったことを理解したモミジが、もう一度鼻を鳴らすと目を閉じた。
そしてそれから何事もなく日が昇った。
周囲が徐々に明るくなり、朝日に照らされてカエデの狐耳がピクピク動く。光から逃れるように寝返りをうつが、諦めたようにガバリと身を起こす。
「なんや、もう朝か。せやかて気持ちのいい朝ぁーっ!!
って、なんやこりゃあ!」
早朝から絶叫。
カエデの視線の先には同じ向きで並べられているオオカミの姿があった。ピクリとも動かないところを見ると、とうの昔に息を引き取ったようだ。
身を守る程度には武器が使えるカエデ。動物の死体を見たくらいでどうこうなるようなタマではないので、マジマジと死体を観察する。
「見たところ、傷一つ無いなぁ。
誰がどないして……」
呟くカエデの視界の端で、自前の太陽光パネルを広げて日光を浴びているキューブ達の姿が見えた。
「よぉ考えんでも自分らしかおらんか。
ごっついわぁ。ウチ全然気づかなかったやんか。」
疲れてたのを差し引いても、獣人としての感覚で何かあれば気づくと思っていたので、ガッカリする反面、自分についた「護衛」の凄さにため息が出そうになる。
「まぁ、見るだけ見てみるかい。」
カエデが解体用のナイフをオオカミに突き刺す。慣れた手つきで胴体を切り裂くと、心臓のあたりを探す。
「……魔石はないか。」
期待はしていなかったので、そこまで落胆はしないが、残念そうにナイフをしまう。
魔石とは魔素と呼ばれる魔法の力の素が生き物の体内で固まったものだ。これが体内にできると、動物は魔獣に変わり、身体能力が強くなったり、特殊な能力を身に着けることもある。強力な魔獣になればなるほど、魔石も大きく、純度が上がる。
が、このオオカミ達は単なる動物に過ぎなかったようだ。
オオカミは肉は美味しくないし、毛皮もあんまり値がつかない。まだ先が長いことを考えると、ワザワザ回収して積む意味もない。
「まぁ、身の安全ちゅうもんを安ぅ買うたと思えばええか。」
キューブが沸かしてくれたお湯でハーブティを淹れながら、カエデは先の旅路に思いをはせるのであった。
お読みいただきありがとうございます




