カエデの暗黒馬車珍道中(その2)
なかなか進まないなぁ、筆が。
「これはまた……」
見つかったのは鳥の巣のような乾いた何かだった。細いひも状のものが絡み合っていて、なんかカサカサに乾いている。鼻を近づけてみると、なんか香ばしい匂いがする。
「このまま食べるんか……?」
食べられなくなさそうだが、なんかとても「不便」な感じがする。
それを前にカエデが悩んでいると、箱型汎用作業機械がお湯の入った容器を持ってきた。
もう一体のキューブが、収納庫からそこの深いボウルを取り出して、カエデの前に置く。
「なるほど……」
そういえば、と収納庫をゴソゴソとあさる。ほどなく一つの袋が見つかる。
「これとこれを……」
ボウルに乾いた何かと、袋に入った乾燥野菜を入れて、ひたひたになるまでお湯を注ぐ。
待つことしばし、乾燥したひも状の何かから染み出たダシが出て、ふんわりと嗅いだことないような香ばしい匂いが広がる。
フォークを取り出して、ボウルの中に差し入れると、乾いたひもがお湯でふやけてほどける。フォークでそれをすくいあげると、恐る恐る口に運ぶ。
「んん!」
熱々のひも――小麦と卵で作った麺が口の中で踊る。スープは塩味なのだが、鳥の風味が感じられる。それに干し野菜から出た味が加わった。また、スープを吸った干し野菜もいい味になってる。
「これは……」
夢中になって最後の一滴までスープを飲み干し、キューブから水の入ったカップを受け取って、こっちも飲み干してからふーっと息を吐く。
「これは驚きや……」
本来、移動中の食事は干し肉や干し野菜を水で戻したスープに堅いパン。あとは移動中に動物や鳥を狩って食べるくらいだ。
百年単位で保存できる真空パックどころか、缶詰や瓶詰の技術も無いこの世界では、食糧の保存方法は乾燥か塩漬け、そして現地調達くらいしかない。
主食に関しては、長持ちするように固く焼いたパンくらいしかなく、水やスープに浸して柔らかくしないと歯が立たない代物だ。
これはお湯をかけるだけでできるので、調理速度も速く、料理が得意じゃなくても出来る。たっぷりの汁ものなので寒いときも重宝するだろう。
しっかり乾燥しているので、腐敗の心配も少ないし、軽い。旅行者の食事としては画期的ではないだろうか。それだけじゃなく様々な可能性が考えられる。
「せやかて作り方がなぁ…… ってあるんかい!」
出がけに渡された資料をペラペラとめくっていると、該当するページがあっさり見つかった。作り方も分かりやすく書いてあり、カエデはともかく、腕に覚えがあるなら十分再現可能だろう。
「これ、十分貴重なネタちゃうんか?」
カエデは思わず頭を抱える。
流し読みしただけでも、いろんなレシピが書かれてある。カエデも商人として色んな地方を歩いているが、どこでも聞いたことないような料理だらけだ。「雄牛の角亭」で食べたあの挽き肉料理もある。
「はぁ~」
まだ寝るにはやや早いし、資料を読むのに十分な明るさもある。丁度椅子もテーブルもある。結構な厚さのある資料をカエデはペラペラと読み始めた。
「なるほどなぁ。やっぱ香辛料かいな。」
出てきたハンブロンの町はどちらかというと気温の低い地域である。すべてがすべてと言わないが、やはり香辛料は暖かい地方に多い。そうなれば移動距離が増えるので、自然と高価になる。
「しっかしまぁ、この紙はなんや?」
羊皮紙でもなければ、話で聞いたことのある木から作った紙とも違う。空気と水から合成できるプラスチックペーパーなんてこの世界では理解できない物だろう。そこに鮮明な写真を印刷しているので、とてもとても他には見せられない。
「いっぺんに覚えられへんな。まぁ、ええわ。今日はここまでにしといたる。」
初日から無理しても仕方ない、と程々の時間になったところで、寝る準備を始めることにした。そろそろ展開にも慣れてきたのか、一体のキューブがテーブルと椅子を組み合わせて人一人が横になれるくらいのスペースを作り出す。もう一体のキューブが貯蔵庫から二枚の厚手の布を取り出した。
「なるほど、一枚は下に敷いて、一枚がかけて寝る奴やな。」
カエデが板の上に敷いたマットの上に転がると、思わず驚いて跳ね起きる。
「驚くのも今更やけど、またこれは空恐ろしいもんや。」
薄っぺらいわりに下の板の硬さを感じさせない不可思議なマットだ。氷の上に直接敷いても、冷たさを感じさせない低反発かつ超断熱マットであることまではさすがに分からない。それでもこれは再現できないタイプのビックリ道具なのだろう、とカエデは理解した。
想像通り、上にかけた毛布っぽい布も、薄い一枚だけなのに暑くも寒くも感じない。
「これはアカンわぁ。」
快適すぎるのも考え物や、と思いながらも、目を閉じると緊張で疲れが溜まっていたのか、あっさりとカエデは眠りに落ちていった。
キューブ二体が彼女の頭と足の方に移動し警戒モードで待機し、夜は更けていく。
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