凄い魔法を見よう
そろそろ秋っぽくなってきました。
一時期すげー暑かったのが懐かしいような、なんというか。
また20分ほど遅れて更新です。がっくし。
「にわかには信じがたいが、異なる世界から召喚された、というわけか。」
そういえば、この「雄牛の角亭」を散々魔改造したわけだが、ベッドに関しては大きな変更はなかった。枠の手直しとかはしたけど、肝心のマットがどうしようもなかった。シルバーグリフォンの中にだってそんなにベッドマットの予備なんかないし、大きさもあるから運ぶのも大変だ。
この世界の一般的(?)なベッドは干し草だ。その上にシーツを敷くので、当たりが悪いと結構チクチクすることもある。特に工夫のしようがなかったが、干し草を高温の蒸気で蒸して柔らかくするのと同時に消毒し、適度な硬さに固めてみた。これがまぁ悪くなかったので、全てのベッドをその固めた干し草に取り替えてみた。
昨日はあの後、大浴場とそんなベッドの部屋に王子とギルさんを案内した翌朝。朝食をとりながらジェルが大雑把に今までの経緯を説明する。
ルビィの召喚魔法の話は濁して、対外的には、魔法の存在しない異世界から何者かに呼ばれてしまった。詳しいことは分からない、で通している。……そういえばルビィの件って、まだジェル以外は知らないんだっけ。
「未だに元の世界に戻る方法が分からないので、まずは拠点を充実させようと思いまして、こちらの宿屋の世話になっておりまして。」
「筋は通っているが、立証不可能なことばかりだな。」
ギルさんは半信半疑というところだろうか。
「まぁ、その通りですな。」
「一応国の立場としては、敵対する意思があるかどうかの確認なのだろうが、おそらくは逆なのだろうな。」
「そうですね。」
ジェルがハーブティを口にする。
「信じるかどうかは抜きにして、我々が求めるのは安寧です。誰にも命令はされたくないので、その時は全力で抵抗しようかと。」
「なるほど……」
ギルさんは昨晩のジェルの「活躍」を思い返しているのだろうか、悩ましい感じだ。
「だーかーらー、考えすぎなんだよギル。
ここでどうこう決めようというのが悪いんだ。普通にメシを食いに来て、普通に喋ってるうちに見えてくるんじゃないのか?」
王子の言葉にギルさんがむ、と唸る。
「言ってることは理解できるし、その通りだと思うのだが、何故それがバカ王子の口から出てくるか、だな。」
この王子、普段の言動は相当信用ならないらしい。そういう人が王子って大丈夫なの、この国。ただ、あたしが聞いた範囲だと、ちょっと考え無しのところがあるが、言うことは真っすぐだ、と思う。ただそれが王族として良いのかどうなのかはまた別の話だろう。
「それに今の口ぶりだと何度もここに来るような話になってるな。
私はともかく、一国の王子がホイホイ来れるわけないだろ。だからバカ王子なんて呼ばれるんだ。」
「呼んでるのはお前だけだろ!
しかもなんでギルだけなんだよ!」
「それ以前に一晩戻らなかったから、さすがにそろそろ帰らないと後々面倒になるぞ。」
ギルさんの言葉に王子が青ざめる。
「やべぇ、また弟にネチネチ言われる!」
と、頭を抱える。
「あの、よろしければ……」
リーナちゃんがバスケットを二人に差し出す。匂いの感じからすると、揚げ物とソースだろうか? となると、あの激ウマのビフカツサンドかな? というか、ソースできたのか! 前はまだソースが無くて塩味だったっけ。美味しかったけど。
でもカツといったらソースでしょ!
昼にリクエストしようかなぁ。
「また不思議な匂いがするな、これは。」
「でも旨そうだ。」
王子とギルさんが同じ表情で視線を交わし、裏のありそうな笑みを浮かべる。リーナちゃんのことだから、お土産ということで多めに用意したんだろうけど、他の人の口に入ることはあるんだろうか。ちょっと不安になる笑顔だ。なんだかんだで、ギルさんも王子と似た物同士なのかもしれない。
「こちらにも諸般の事情があってな。
誰かのやった後始末の為に王都から騎士団が来る予定だ。……これ以上面倒は起こさないでくれ。」
「善処しましょう。」
素っ気ないジェルに、ギルさんがどこか助けを求めるような目でこちらを見てくる。
残念ながら……
そんな意思を込めて小さく首を振る。
うまく伝わったのか、ギルさんの眉間の皺が深くなる。そして諦めたように肩を竦めた。
「行くぞ、バカ王子。」
「へいへい。来れたらまた来るわ!」
二人が立ち上がり、周りから離れるように距離をとる。
ギルさんがそばに立てかけていた杖を握ると、真っすぐ構えて呪文らしきものを唱え始める。それと同時にギルさんを中心に光のモヤのようなものが揺らめき立つ。
見え方がなんか不自然で、片目ずつで見てみると、右――赤くなった方の目で見た時だけ、そのモヤが見えた。
もしかすると、それが「魔力」とかいうものなんだろうか? 後でジェルに聞いてみよう。
数秒ほどで終わったのか、右手に杖を持ち直し、左手で王子の襟首を掴むと、杖の先で地面を突いた。
床に光で複雑な文様――あたし達がこちらの世界に来た時に通ったような図形が描かれると、そこから上に伸びた光が二人を包み込む。次の瞬間、二人の姿は「雄牛の角亭」から消え失せていた。
「……魔法みたい。」
「魔法なんでしょうな。」
この世界の住人であるアイラやリリーも驚いた顔をしているので、なかなか見られるようなものじゃないらしい。
驚いた。ジェルですら驚いているんだから、あたしなんてどれくらい驚いたものやら。
今更ながら、本当に異世界に来てしまったもんだと実感する。
改装という名の魔改造が終わり、くだらないことを考えていた輩も程々一掃して、この「雄牛の角亭」にも少しずつお客さんが来るようになった。
門番のバモンさん、ギルドのサブマスターのガイザックさん、領主のジェニーさんに狐の獣人のカエデ。それから黒竜のサクさんに最後は王子と魔法使いときたもんだ。
「雄牛の角亭」にも人が増えたので、そろそろあたし達もこの世界の地図を描き始めてもいいころだろうか。
……なんてね。
まずはこのハンブロンの町をもう少し見回ってみようかな?
MISSION:千客万来を迎えよう
HIDDEN MISSION:平穏を乱す輩を叩き潰そう
...ALL MISSION COMPLETE
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次のINTERMISSONはカエデの珍道中の予定です




